第六七回
【拾う神】
平成二三年十二月四日
梅の季節には梅を、栗の季節には栗を生で食べたがる野生児を説き伏せ、二人でフリーマーケットに出向く。野生児は気に入るものが見つからないと何も買わずに帰ってくる私を知っているので、どうせ冷やかすだけだろうと笑っている。けれど、今回は違う。一週間前に遊び半分に手相占いを見てもらった友人の結果が当てはまりすぎているのに驚き、ただの付き添いだった私も見てもらった結果、直観力に優れているといわれた。左右の生命線が二重にあり、精神的にも肉体的にもタフで、殺しても死なないタイプだと言われたのは心外だったけれど、自分が持っている直観力とやらにかけてみたい。折りしも世は空前の物捨てブーム。今回を逃したら、このさき何度フリーマーケットに出向いても、欲しい品物にめぐり合わない、そんな気がしてならなかった。だから、もしものときに備え荷物持ちとしてついてきて欲しい、と頼み込んだのだった。
予測どおり、いつもと違う出店数と売り物の数に圧倒されたけれど、シートに並べられた食器を目当てに、いつもどおり、ゆっくりと品定めしていった。あった、とうとう巡りあえた。とある喫茶店で出されたコーヒーカップ。木苺のモチーフが好みのノリタケのロイヤルオーチャードのコーヒーカップが五客そろって千円だった。フリーマーケットにつきものの値引き交渉は却下されたけれど、あまりの掘り出し物に胸が躍る。荷物持ちと化した野生児の「まだ買うつもりか」という言葉を無視して、次を見てまわる。
人垣の中から、古びた箱に入った飴色に輝くガラスの器を発見する。昭和の昔、実家で使っていたものと同じ色だ。古びた箱は大切に保管されていた証し。懐かしさのあまり掻き分ける人ごみ。器は先に買ったのと同じ、五客揃いのカップとお皿のセットだった。戸惑う私。値段を聞いてみると、全部で二百円でいいですから買って下さい、と懇願される。どうしよう、野生児を振り返ると「欲しかったら買え」と太っ腹な返事をいただく。
十客の器を洗剤で洗い、漂白すること二回。晴れてうちの食器として向かえることになった。早速、飴色のカップに似合う紅茶を淹れる。お茶請けに四つに切ってトーストした食パンを冷まし、蜂蜜を塗ったのを添える。春に買って寝かせておいた蜂蜜は深まる秋に冷やされて白濁しかかり、とろみが増して、しゃりしゃりとした糖の粒が舌をくすぐる私が一番好きな状態になっている。輝くカップと美味しいお茶請けに大満足しながら、己の直観力を確かなものにした私の一日が終わったのでした。
ありがとう、多くのものに囲まれた人。ありがとう、片付けの魔法にかかった人。物を捨てることに感化された人よ、ありがとう。あなた方のお陰で今の私には到底買うことが出来なかった高価なカップと、二度と手にすることが出来ないと思っていた懐かしいカップをとても安く手に入れることができました。私は、これからも捨てる神様が増えることを願っています。拾う神となった貧者は、破格値で手に入れたものを末永く大切に扱うことを約束いたします。申し訳ないことに古びた箱は処分してしまいましたが、中身は貧者自身が使うことを約束いたします。高価なものが安かったからとか、懐かしいものを手に入れたからといって、オークションにかけたりレトロショップに持ち込んだりしないことをここに誓います。
筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。
過去のひとくち
第一回
会長は左利き!?
第二回
知恵袋
第三回
貧的生活
第四回
小さな戦い
第五回
御利益
第六回
貧句
第七回
冬支度火鉢編
第八回
火鉢事始
第九回
文質彬彬
第一〇回
夢合わせ
第一一回
貧者の銭失い
セピアな色に染めないで
其の一
お弁当箱
其の二
遺されたもの
其の三
かめ
其の四
叔母の残像
其の五
赤いミキサー
其の六
かせくり器
其の七
薔薇のつめきり
其の八
竹行李
其の九
卓上時計
ちょっとひとくち第二部
第二一回
たまごひとつ分のしあわせ
第二二回
タオルの価値
第二三回
貧の楽しみ:花
第二四回
貧の楽しみ:家
第二五回
貧の楽しみ:衣
第二六回
貧の楽しみ:肉
第二七回
貧の楽しみ:薬
第二八回
貧の楽しみ:本
第二九回
貧の楽しみ:道
第三〇回
貧の楽しみ:髪
第三一回
貧よく暮らす:貰い物の心得
第三二回
貧よく暮らす:スーパーでの心得
第三三回
貧よく暮らす:台所の心得
第三四回
貧よく暮らす:衣類の心得
第三五回
貧よく暮らす:「鍋」の心得
第三六回
貧よく暮らす:入浴の心得
第三七回
貧よく暮らす:就寝の心得
第三八回
貧よく暮らす:春の鼻
第三九回
貧よく暮らす:飲酒の心得
第四〇回
貧よく暮らす:こころの心得
第四一回
貧よく暮らす:ナメクジの心得
第四二回
貧よく暮らす:食の心得
第四三回
貧よく暮らす:嗜好品の心得
第四四回
貧困歌
第四五回
貧困歌
第四六回
財布の御機嫌
第四七回
師走の閑話
第四八回
心の奥で想うこと
第四九回
軒下ものがたり
第五〇回
【春・貼る・張る】
第五一回
【食事情】
第五二回
【夏のつぶやき】
第五三回
【無理せず、無駄なく、欲張らず】
第五四回
【袋はひとつ】
第五五回
【贅沢いろいろ】
第五六回
【新しい住処】
第五七回
【諸事情】
第五八回
【初夏のひとりごと】
第五九回
【さよなら定額給付金】
第六〇回
【夏の夜の怪】
第六一回
【ストーブの上で】
第六二回
【つぶやく鳥たち】
第六三回
【収穫】
第六四回
【宣戦布告】
第六五回
【ストーブを点けるまで】
第六六回
【電気と暮らす】
第六七回
【拾う神】
第六八回
【冬のごちそう】
ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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