ようかんのちょっとひとくち

 冬になると洋服より温かいからといって着物を着ていた知り合いのおばあちゃんがいた。洋服より温かいはずの着物も、気温の低下と共に襦袢の下の肌着が増え、着物の上に半纏が増えたりと、たけのこのように何枚も重ねて着るのが常だった。そんなおばあちゃんが、ある冬の日、こっそり私に囁いた。
 「今日は温かいと思って、着ているものを数えたら七枚も着てたの。」
 あと五枚で十二単やねぇ、と笑う私につられて笑う、おばあちゃんの頬は薔薇色に染まっていた。

 このおばあちゃんのように冬に着物を着たりしないけど、肌寒さを感じるようになってきたら肌着と靴下を重ねて体を温めるようにしている。重ね着といっても、手持ちの肌着が三枚に靴下が三足のため、二枚重ねのものをそのまま洗濯したりなんかしたら残りは一枚と一足になる。これでは次の日に重ねるものが無くなってしまうので、洗濯するのは外側に重ねていた一枚と一足にしている。お風呂から上がったら、洗濯しておいた肌着と靴下を素肌につけ、その日、直接肌についていた肌着と靴下を重ねる側にまわす。こうすれば、常にきれいなものが肌に触れるので衛生面の問題はないと思っている。ひとつだけ問題があるとすれば、底値で求めた肌着のデザインがばらばらで、重なる襟の辺りから下に来ている肌着のレースがはみ出たり、白色のVネックの下から肌色のシャツが覗いたりと、我ながら情けない格好になってしまうことなのだった。

 重ね肌着の上に洋服を重ね、それでも冷えを感じれば、背中に貼るタイプのカイロを装着。肌着と肌着の間、腰の上あたりに貼った一枚のカイロが肋骨の古傷をほかほかと温め、やがて、その温もりが身体中に伝わってくる。朝に身を屈めて貼ったカイロを入浴前に肌着からバリバリと剥がし、下腹へと貼りなおす。下腹にカイロを貼った肌着を洗濯した肌着に重ね、パジャマとして使っている厚手のTシャツを着てトレパンを穿き、靴下も重ねて穿く。カイロを貼らないときには、Tシャツの裾をトレパンの中に入れて眠るけれど、カイロを貼ったら低温火傷の予防のために裾は出しておく。カイロの下の二枚の肌着、トレパン、下半身用の肌着、四重になった布地で低温火傷から肌を守る寸法だ。低温火傷から身を守る方法としてもうひとつ重要なのは、カイロの熱がこもらないようにすることで、これは上向きに眠れば避けることができる。目が覚めたとき、うつ伏せになっていて慌ててお腹を確かめることがあるけれど、明け方にはカイロも冷めかかっているので、今のところ肌に変化は無く、無傷ですんでいる。一日十数円のささやかな暖房。一度カイロを貼ったなら、朝から朝まで冷めるまで、二十四時間たっぷりと働いてもらう。
 木の葉が落ち、冬の気配が濃くなってくる頃。火鉢を出して灰をならし、五徳を置いて密かな火遊び開始、私の大好きな冬の風景がはじまる。

 音を立てて吹いてくる冷たい北風。雪混じりの風が本格的な冬を運んでくる。もう、この頃にはいつでも点火できるように部屋の片隅にストーブを置き、灯油も買っておく。重ね肌着の背中にカイロ。火鉢にストーブ。気温にあわせて少しずつ変化しながら、私の冬支度が完成していく。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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