ようかんのちょっとひとくち

 体温を超える最高気温、連日の熱帯夜。厳しかった、本当に厳しかった今年の夏。熱波に負けて劣化を早め、折れてしまった洗濯バサミの数、十一個。街を歩けば、自転車が自然にパンクする姿に遭遇し、家に入れば部屋を徘徊中の蟻に咬まれる。日照りは知人の畑から私のトウモロコシを奪い、我が家の物干しにある鉢植え農園のミニトマトにも容赦しなかった。収穫量は昨年の約半分。緑色の実をしぼませながら枯れていくミニトマトの苗になす術もなく、天を仰げばこちらの目が焼けそうになる。

 苛立ちを覚えるほどの暑さの中、体長五ミリほどの、黒くてちょっとお尻を上げた形で歩くゴキブリの子どもらしき虫を毎日のように発見し、ティッシュペーパーでなら捕まえることが出来るようになった。最初のころは奴を見かけるたびに飛び上がり、箒とちりとりを取りに行っていた。けれど、箒とちりとりを抱えて戻れば奴の姿がない。動けば汗が滴る暑さの中、体力温存のためと言えば聞こえは良いけど、動くのが面倒くさくなってティッシュペーパーを使ってみたら、いとも簡単に捕獲に成功。意外と平気だった。捕まえたときに動く奴の感触が手に伝わらないようにと、はじめは大量に使っていた駅前で貰ったポケットティッシュの枚数も回を重ねるごとに減り、最終的に二枚重ねのもの一組だけで捕れるようになった。

 小さい奴がいなくなってホッとしたのも束の間、次に出没した奴は、少し成長していた。赤っぽい茶色、濡れたように輝く体。増えるポケットティッシュの枚数。捕獲に失敗し、腕を走られて全身総毛立ち慌てて振り落とした日。家具の隙間に逃げ込もうとする奴をあと一歩のところで捕まえた日。日々、格闘していく中で、乾いたティッシュペーパーを使うと逃がす確率が高くなることが判明した。隙間が出来にくくなるのか、奴の体が滑らなくなるからなのか判らないけど、湿り気があるティッシュペーパーを使ったほうが捕まえやすく、逃がす回数が減っていった。ティッシュペーパーの最少使用量に挑戦し、左手に四つに折ったティッシュペーパーを持ち水をひと吹き、狙いを定めてピンポイントでの捕獲に成功したときは本当に嬉しかった。捕まえた奴をティッシュペーパーにくるんだまま、新聞紙や広告で包み、その上からガムテープをぐるぐると巻きつける。隙間ができないようにきっちり巻いたのを確認してから、屋外のゴミ箱に捨てに行く。部屋に置いた霧吹きは、ポケットテイッシュと共に私の心強い味方になった。喜ばしいことに、小さいのと中くらいの奴を次々に捕獲したお陰か、今のところ大きいのに出くわしていない。

 暑すぎて奴の子どもを見つけても、動くのが面倒という気持ちにさせられたこの夏。これは、私はもう若く無いんだ、ということだろうか。いや、違う、それでは何だか寂しくなる。箸が転がっても笑えた、些細なことに反応する若いエネルギーはとうに持ち合わせていないけど、奴を見かけて飛び上がり、箒とちりとりを取りに行くエネルギーは持っていた。茹だるような暑さが、エネルギーの使い道を変えて些細なことに動じない力をつけさせ、奴の子どもを見つけても騒ぎすぎることなく捕獲できるようになったのだと思いたい。多いときで一晩に四匹もの奴をゴミ箱に運んだ私、この調子でこの先何年も歳を重ねたなら、どんどんエネルギーの方向が変わり、昔、実家の近所に住んでいたおばぁちゃんのように奴を素手で倒す日が来てしまうのかもしれない。

 「尻で聞く移る季節の足音を寝起きの便座かすかに冷えて」ようやく冷めようとする夏に、食欲だけが秋本番を見せている。
 奴の子どもをティッシュペーパーで捕獲できるようになったことが、私にとって今夏一番の収穫になるけれど、それではお腹が膨れない。とりあえず、二十日後の収穫を楽しみに、枯れ果てた鉢植え農園を耕し、種を蒔いてみた。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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