ようかんのちょっとひとくち

 ゴミ袋が黒色から透明のビニール袋に変わった頃、あのころのゴミ収集日はカラスにとって天国だったに違いない。週に二回ほど設けられる格別の餌場に狂喜乱舞。朝はやくから仲間を呼び、あっちの袋から野菜くずを、こっちの袋から身が残っている魚の骨を引っ張り出す。人が必要としなくなったものを始末してくれるカラスたちの行動は、遠い意味での食物連鎖。サバンナの掃除屋ともいわれるハイエナやハゲワシのような存在が人間界でのカラスだったように思うのだけど、その、あまりの食事マナーの悪さは人々の怒りをかってしまうことになる。カラスが破ったビニル袋から散乱するゴミに悩まされた人々は知恵を働かせ、生ゴミを新聞紙で隠し、ゴミ袋の上に網をかけ、カラスの死骸もどきの人形をぶらさげたり、とあらゆる努力をしてゴミ袋を守った。
 天国を追われ、餌場を失ったカラスは神社や公園に住んでいる「土鳩」の許に身を寄せてみた。けれど、結果は同じだった。

 その昔、伝書鳩で名を馳せた土鳩の子孫もまた、餌場の確保に苦しんでいたのだ。カラスと同じように空腹の土鳩たちは「平和の象徴」として、もてはやされていた頃が懐かしいと嘆いていた。人が投げてくれたパンくずでお腹はいつも満腹。神社の手水で喉を潤した日々はもう、戻らない。平和ゆえの子孫繁栄。増えすぎた土鳩から落とされるフンに悩まされるようになった人間たちの手から、パンくずが入った袋が消えていったのだった。


 田植え間近、水を張った水田を乱れた黒い羽の持ち主が歩いていた。遠くにいる、水辺を住まいとしている鳥の足の使い方を真似して虫を追い出そうとしてみても、慣れない水の中とあって思い通りに足が動かず、ずっとうつむいたまま歩き続けているのだった。田んぼのあぜ道では、スズメに遠慮しながら土鳩が懸命にエサになるものを探している。

「カラスさんは足が長いから水に入ることが出来ていいね。」あぜ道から土鳩がカラスに声をかける。
「とんでもない。」カラスが言う。
「あのころ、ビニール袋から出していたゴミに比べれば田んぼの虫なんて腹の足しにもならないんだよ。いつもお腹が空いていてたまらないんだ。」
「僕たちの先祖が伝書鳩として、人間の役に立っていた頃は、それはいい待遇だったと聞いたことがある。だけど、時代は変わったんだ。今はケイタイデンワというものが僕たちの先祖の代わりをしているんだってさ。」
チュンチュンと声をあげ、スズメが口を挟む。
「カラスさんも土鳩さんも良い時代があったのが羨ましくてならないわ、私たちなんて民家の軒下を借りて巣をかけても取り払われるのよ。」
 大事な子育ての季節に、人間に巣を守ってもらえるツバメたちが羨ましくてならないわ。家の中に巣を作らせて貰えるツバメもいるのよと、ため息をつくスズメ。田んぼにお米が実るころは人間がずっと見張っているので怖くてお米も食べられないと言う。
「朝も昼も、ずっと、ずぅっと見張っているの、同じ場所で動きもせずに。」
「そうだよな。」土鳩が頷く。
「同じ鳥の仲間なのに、可愛がったり、追っ払ったり。人間のすることはさっぱり訳がわからないや。いっそのこと、僕たちも燕尾服ってやつを着てみたらどうだろう・・・。そうすれば、大切にしてもらえるだろうか。」
「冗談も休み休み言えよ。」何をやっても無駄なんだよと、皮肉な笑いを浮かべ水田の奥に足を運ぶカラス。

 笑いながら振り返った土鳩が見たものは、あぜ道に落ちていた黒いビニールの切れ端をくわえて羽ばたくスズメの姿だった。

スズメ
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

ホームへ戻る このコンテンツのホームへ このページのトップへ
---
ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
COPYRIGHT © Takuya Kawakami. ALL RIGHTS RESERVED.
掲載されている写真・文章等の無断転載は硬くお断り致します
takuya.kawakami@gmail.com