ようかんのちょっとひとくち

 汗をかきながら晩御飯を終え、食器を流しへと運ぶ。スポンジに洗剤を垂らし茶碗を洗い流し桶にいれる。次にお皿を洗おうと一歩よこに動いた私の脛をすうっと何かが触った。ハーフパンツから出ている生足の部分を何かが触れて通ったのだ。虫でもいるのかと足もとを見ても何もいない。気のせいかとお皿を流し桶にいれる。湯のみ、箸、小皿をスポンジで洗い、水を流しながらすすぎ始める。すすぎ終えた食器を順に流し台へと伏せるとき、また何かが私の脛に触れた。えっ?と思い、もう一度足を確かめてみる。何も見つからない。拭いた食器を棚に片付けるとき、今度は違う足を撫でられた。柔らかく、触れるか触れないかの距離。それでいて何者かに撫でられたことだけが、やけにはっきりと伝わってくる不思議な感触。開け放した窓のカーテンがぴくりとも動かない蒸し暑い夜に突如おそう寒気。さっきまでの汗が嘘のようにひいている。扇風機のかわりにつけた換気扇が回る音だけが聞こえる静かな夜。薄暗い台所で中腰になり辺りを伺う。ぞくぞくする首をすくめながら息をころしていると私を呼ぶ声がした。
 「ようかんちゃん・・」母だ、母さんの声だ。どうして私を呼ぶのか。お墓参りの花束をけちり、ひと束の花を半分こにして二箇所の花立てに使ったのが気に入らなかったのだろうか。でも、それなら、お墓でちゃんと謝ったじゃないの。今回は父さんの初盆で他の人もお参りに来るはずだから私の花は少なめにしておくよ、と報告したじゃない。

 びくびくしながら布団に入ったものの、何事も無く、無事に起きることができた次の日の朝。いつもどおりガス要らずの軽い朝食を食べ、洗濯をする。うん、もう大丈夫。なんど台所を通っても何も起こらない。洗濯を干し終えたら次は掃除。ほうきで掃いたら拭き掃除。一番最初に洗面所を拭き、台所の床へと移る。しゃがんで柱の隅から拭いていく。ガステーブルの下を拭き、流し台の床へと移動したとき、何かが私の頬を撫でた。再びおそう寒気。いっきに昨晩の恐怖がよみがえる。もう大丈夫、と思っていたのに何故。雑巾を持ったまま座り込んだ拍子に、流し台の扉に何かが揺らめいているのが見えた。髪の毛だ、一本の髪の毛がお辞儀をするような形でフワフワと揺れている。なぁんだ、私の頬を撫でたのはこれか。立ち上がって歩いてみると、ちょうど脛に触れる位置だ。さっきまでなんともなかったのは、昨日より長めのパンツを穿いていたから気づかなかっただけなんだ。台所を通るたびに怖い思いをさせられたあげく、これは母親じゃない「別の何か」だと震え上がり、お風呂で髪を洗うのも怖く、鏡さえ見れなくなってしまったのに。恐ろしさのあまり、むかし見聞きしたありとあらゆる怖い話を思い出して想像力の塊りとなり、全身を鳥肌で覆って布団にもぐりこんだというのに・・。結局、耳元で聞こえた、あのときの母の声も幻聴だったということなのか。すべての原因が自分の細い抜け毛だったなんてあんまりだ。どんな経緯をたどってこうなったのか分からないけど、ご飯粒のかけららしきものでくっつき、揺れ動いている髪をひっぱったらプチッと音がして取れた。こうして、私を羽無しチキンにした原因が解明され、それは即座にゴミ箱へと運ばれたのだった。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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