ようかんのちょっとひとくち

[忘れてた衝動買いする心地よさ褒美という名は付けないけれど]

 出会いはいつも突然にやってくる。用事で出かけたついでにふらりと寄ったデパートで見つけた、こげ茶色のジャケット。一枚も持っていない、それでいて一番欲しかった夏のジャケットが遠くから私を誘っていた。家計費と別にして持ち歩いていた一万二千円がはいっている財布を確かめながら誘われるままに売り場へと近づく。お買い得コーナーのジャケットを手にとり、待ち構えていた店員の説明を遮るようにして試着をさせてもらう。ぴったりだ。さり気無く手に取る値札。うっ、いつも買っている洋服よりもゼロがひとつ多い。デパートならではのお買い得価格にたじろいだものの、迷いはなかった。今日はいつもの私と違う、財布に入った一万二千円で強気になっている。迷ったあげく「自分へのご褒美」なんて自分を納得させて買うんじゃない。欲しいから買う、という「衝動買い」をするのは何年ぶりだろうか。店員から手渡された、手さげの紙袋に入ったジャケットを提げて帰るときの心地よさ。久しぶりに提げて歩く店のロゴ入り紙袋に、感無量の私なのだった。


[梅を買う三回に分け梅を買う一年分の蓄えを買う]

 定額給付金の残り、七千円。まだ半分以上も残っている。身につかない‘‘あぶく銭’’で身につけるものを買ったから、残りのお金で身になる「実」を買いたい。先のことを考えると、なかなか下火にならないどころか、感染者が増えている新型インフルエンザに備えて何か準備をした方がいいのかもしれない。だけど、マスクは売り切れ状態。出遅れた感があるけれど、近いうちに再度並べられるであろうマスクを追うより、いま買っておかなければ一年間おあずけをくらうものがある。強気なままの財布に後押しされ、例年なら三キロどまりの梅の実を六キログラム買ってきた。自転車で一度に運ぶと危ないから、三回に分けて運んだ。一キロの梅はガラス瓶の中で氷砂糖と共にホワイトリカーに揺れ、熟成のときを待っている。琥珀色になった梅酒は眠れない夜の友として私を癒してくれるだろうし、余った氷砂糖はいざというときに貴重なエネルギー源に変わるだろう。五キロ分の梅は塩漬けにされ、カビが生えることなく紅く染まりはじめた。あとは出来上がるのを待ち、食べるだけ。真っ赤になった梅ぼしが夏には名脇役となり私に食欲を与え、病気のときはお粥の真ん中に乗り私を元気付けてくれるだろう。これで、お米さえ途切れなければ何もいうことはない。


[香ばしきバターの残り香台所消えゆくまでのひと時楽しむ]

 使うまではアレコレ夢を見ていた定額給付金の使い道。美味しいものをお腹一杯食べてみたいとも思っていたのに、使い始めたら減るのが早いこと。出来上がるまでに時間がかかる「梅の実」に先行投資してしまったので、あっという間に残り千円を切ってしまった。お腹が膨らむことなくしぼんで行く一方の強気だった私の心と財布。弱気に傾く心を奮い立たせるよう、残りのお金で最近とんとご無沙汰だったバターを二箱買ってきた。きつねよりも色が濃い、たぬき色に焼いたパンにたっぷりとバターを塗って齧り付く。そうそう、憶えてる。この香り。ひとくち、ふたくちと頬張るうちに何だか元気になってきた。珈琲をすすってパンを齧る。降って湧いたあぶくのような定額給付金がはじけるように姿を消した。やがてバターの香りもうちの台所から消えていくだろう。そしたら、いつもの暮らしに戻ればいい。二枚目のパンを焼き、おやつにしてはちょっと多すぎるぞ、カロリー過剰だぞと思いつつ、またもやパンにたっぷりとバターを塗ってしまう。パンに融け込むバターを見ながら、ひと時の幸せに浸るわたしが居た。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
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