ようかんのちょっとひとくち

[絶え間なくできるタンコブ青あざよ身体忘れず古家の距離を]

 部屋からトイレへと続く廊下のような場所、低めの天井に下がる吊り棚。ライトつきのカバーに覆われた換気扇。床下には収納庫。狭さを克服するためか前の家より、ちょっとだけ文化の兆しが見える転居先の台所。流し台の前に広がる大きな出窓は配膳台の代わりとなり、その狭さを克服してくれることだろう。出窓の横についていた布巾かけで目を突きそうになり、早急に取り外す。慣れない吊り棚に爪先立ちで手を伸ばし、足がつりそうになり慌てて踏み台を用意する。床下に入れたジャガイモを掘り出すたび収納庫の前に正座するわたし。この収納庫は開け方が足りないと蓋がすぐ元に戻ろうとするので気が抜けない。流し台の高さ、幅、出窓の広さと棚の場所。どれひとつとっても前の家と勝手が違う。前の家の感覚のまま動き、頭をぶつけ、肘を打つ。いい加減に慣れないと体中あざだらけになりはしないかと心配になるけど、長年体に染み付いた距離感はなかなか変えられそうにない。


[ピンポンとチャイム鳴らして彼が来る迎える我の頬染まりけり]

 古家から新しい古家への転居は、天然ガスからプロパンガスへの移行も含まれていた。人づてにプロパンガスは高いと聞いていたものの、はじめて請求書を見たとき我が目を疑い、逃げ出したくなった。まさか二倍近くにはね上がるなんて。プロパンガスから天然ガスへの移行なら、どれだけ嬉しかったことか。想像をはるかに超えた金額はまるで、下がった家賃の穴埋めをするかのように思えた。これじゃぁ怖くてガスが使えないじゃないの。・・納豆、漬け物、生野菜。一度目の支払日を境にガス要らずの食品が食卓を飾る。ガスを使うとキッチンが汚れるから、なんて奇麗事では済まされない。ガスを使うと料金がかさむという、切迫した危機感がつきまとうようになった貧者の生活。あれから毎月、忘れることなく我が家にやってくる彼。集金日だと分かっていても、チャイムが鳴るとドキッとする。今月はいくらだろう。温かい料理は石油ストーブにまかせたし、お風呂のお湯も浅めにいれたからそんなに払わなくてもいいだろうか。財布を持つ手に力が入る。高まる緊張感。速まる鼓動に頬まで熱くなる。願わくば、頬を薔薇色に染めて玄関を開ける私を見て、集金のおじさんが変な誤解をしませんように。


[見かけより中身が大事訳ありの君を美味しくいただけるなら]

 訳ありの男を家に連れて帰ると面倒なことになりそうで嫌だけど、最近スーパーでやけに目に付く「訳ありリンゴ」なら喜んで買い求めて帰る。ヘタが割れていたり、実の表面にぶつぶつができていたり、と安売りされる「訳」はさまざまだけど貧者にとって大切なのは見かけよりも中身と値段。割れたヘタを切り落とし、表面のぶつぶつなんて包丁の角でえぐりとれば何の問題もない。小ぶりなものが入っていたら皮を剥いてぶつぶつを除き、丸ごと摩り下ろして焼肉のタレを作ったりする。摩り下ろしたリンゴにネギのみじん切りをたっぷり加え、しょう油で味付け。風味付けにごま油少々を加えればそこそこ美味しい、甘口のタレができる。次に豚こま、キャベツ、シメジ、かぼちゃなどを用意。フライパンの中で個別に裏返し、具材が混ざって炒め物にならないように気をつけて焼く。焼きあがったものから順番にリンゴのタレを浸して食べると、それは確かな焼肉の味になるのだった。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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