ようかんのちょっとひとくち

[積み上げた箱に囲まれ眠る夜迷路さまよう夢にうなされ]

 引越しの準備開始。家中を空っぽにするときがやってきた。新しい住処に入らない大きめの家具を処分したし、自分なりに貧よく、ほそぼそと暮らしているので荷造りなど簡単に終わるだろうと思っていたけど、どうも錯覚だったようだ。収納という便利な入れ物に隠されていた「物」は驚くほど多く、本棚を空にするだけで三箱の段ボール箱を費やし、途方にくれる。ひとさおのタンス、食器棚。流し台や洗面台の下、文机の引き出し。廊下の棚に至るまで溢れるようにでてくる「物」たちにヤケを起こしそうになる私。いっそのこと誰かが言っていたように、全部新しいものに買い換えてしまえばどんなに楽になるだろう。けれど今は「百年に一度の大不況」。買い換えなんて儚い夢を見るより、買えなくなる不安の方が大きいし、どう足掻いてもそんな贅沢できやしない。家具を粗大ゴミに変えるのにもお金が動く世の中。使わないものならともかく、要るものまで捨ててしまって後悔したくないから、使ってるものはみんな持っていくって決めてある。レジ袋を膨らませている駅前で貰ったポケットティッシュも、押入れに押し込んでいた温泉タオルもみんな箱に詰め込んだ。詰めては積み、積んでは詰めてを繰り返す。引越しの前夜、積み上げた箱の隙間に寝床をつくり、丸くなって眠るわたしが居た。


[手荷物に名札つけても意味は無く迷い子いずこどの箱にいる]

 引っ越したその日に、食べてねと畑から朝抜いてきたばかり、泥つきのねぎを貰う。折れた葉の先を見ると、ネギ特有の透明の粘りがついている。やった、このねぎは甘い。焼いたらきっと美味しいはず。ふと、某有名動画サイトで見た、選手の中で一番お気に入りのフィギュアスケーター、ロシアのプルシェンコ選手が「ねぎま」を口にしている画像が頭に浮かんだ。ねぎま・・。ねぎだけを串に挿して鶏の脂で焼いたのと違う、肉と交互に串に挿してある一ランク上のねぎまが食べたい。なんてたって引越し祝いの宴だ。荷解きもそこそこにスーパーへと一目散。豚のこま切れを求めて帰る。家に戻って台所用品の入った箱を探ると、串が見当たらない。確か、どころではない、絶対に持ってきたはずなのに何処に紛れ込んでいるのか分からない。手に刺さると危険だからと幾重もの新聞紙に包み、特別扱いしたのが悔やまれる。簡単に済ませた昼ごはんに空腹が勝ち、串探しを諦めてフライパンにねぎと肉を押し付けて焼く。「ねぎま」と変わらぬ味に満足し、雰囲気だけでもと箸に肉とねぎを交互に挿し、口の横にきゅっとひっぱってお行儀悪く食べるのだった。


[ねぇ聞いて一週間目の悲喜劇をあちらこちらでモウモウ叫ぶ]

 移り住んで一週間経ったころ、いろんなことが一度に起きた。洗濯物を干そうとベランダに出れば凍った床に滑り、氷の露がついた竿を拭いていたらポキリと折れる。四本あるうちの一本がサビついていたのは知ってた。昨日まで洗濯物をぶら下げても何とも無かったのに、雑巾で拭いただけでポキンだ。折れた竿を下ろし洗濯を干し終え、珈琲を飲もうと部屋に行く。蛍光灯の紐をひっぱると、プツンと切れる。紐を握ったまま私までキレそうになったけど、ぐっとこらえて、台所のタコ糸を結んで急場をしのぐ。しばらく平穏なときが過ぎ、夕飯を無事に済ませてお風呂の準備。お湯の温度を調整し蛇口を開いて十五分。お湯を止めにドアを開けた私が見たものは、先から噴水のようにお湯を噴き出している蛇口の姿。辺りに飛び散るお湯の様子に、あわてて近くによって見ると、蛇口の先のプラスチックに亀裂が入っているのが分かった。前から入っていた亀裂が水圧に耐え切れなくなったみたい。あわててお湯を止め、乾いたタオルでしっかりと拭いたのち、ビニールテープでぐるぐる巻きにして応急処置を施した。好条件の家だけに文句もいえず。前途多難な感じもするけど、これからが楽しみな物件である。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

ホームへ戻る このコンテンツのホームへ このページのトップへ
---
ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
COPYRIGHT © Takuya Kawakami. ALL RIGHTS RESERVED.
掲載されている写真・文章等の無断転載は硬くお断り致します
takuya.kawakami@gmail.com