ようかんのちょっとひとくち

[麺高くすする素麺ナスの味レシピノートに書き足す薬味]

 作り主の事情で滞った今年の夏野菜。限りなく百に近いエンゲル係数に「プチトマトを育ててよかったぁ」と、叫んでいたところに違う人からナスを貰う。早速、テレビで覚えたばかりのナス素麺とやらを作ってみる。大きなナスをまるごと、贅沢にも皮をむいて使う。皮をむいたナスを縦に薄切り。薄切りにしたものをもう一度縦に細く麺っぽく切り、塩水につけてアクを抜く。水気を切った細切りナスに片栗粉をまぶし、多めのお湯で茹でるとナスの素麺もどきができあがる。氷水で冷やした素麺もどきを器に盛り、麺つゆをかけて完成だ。夏向きの一品とあってガラスの器が良く似合う。透明になった片栗粉に包まれたナスが涼しげに見える。ほんものに比べコシがないのは残念だけど、たっぷり使った氷に冷やされたナスの喉ごしがたまらない。冷たいまま喉をすべり落ちるナスが、体にこもっている熱をすうっと冷ましてくれる。おろし生姜を添え、刻みネギを用意しておけば、ほぼ素麺だ。これなら小麦粉のあおりを食らって底値を見せない本物に悩ませられることはない。嬉々としてレシピノートに書き留める。献立名に「もどき」や「ほぼ」という言葉を使わないのが貧者としてのプライド。新メニューの献立名は、「ナスの素麺仕立て 二種類の薬味とともに」これに決めた。これでもう、貰いナスが重なったとしても怖くない。



[浴槽に座り打たせ湯肩ねらう蛇口の位置の調整難し]

 癒しが必要な年頃。こどもの頃に微塵も感じなかった不快感が肩を襲う。両の肩に大きな鳥を乗せて歩いているような重苦しさ。腕を振り回したり、肩を上げ下げしても鳥は飛び立ってくれない。完全なる肩こり。重苦しい肩に音を上げる前に、いつものあの手を使ってみる。お風呂場に行き、お湯の温度をぬるめに設定し衣類を脱ぎ捨て浴槽に栓をする。体をざっと水洗い、空の浴槽に入る。蛇口をひねり、温かいお湯が出始めたら浴槽に座り、蛇口から出るお湯が肩に落ちるように蛇口の位置を決める。蛇口の位置が決まれば、給湯式打たせ湯の登場だ。あっちを向いたり、こっちを向いたり。両方の肩に満遍なくお湯が落ちるよう体の向きを変えながら、ゆっくりとお湯を浴びる。肩を打ち、背中や胸を流れたお湯が浴槽に溜まり体を温め始めた頃、二羽の鳥は何処かに羽ばたいて行き、重かった両肩がふわっと軽くなる。お湯が溜まるまでの十数分間の密かな楽しみは、暖かい季節限定の秘湯のような存在なのだ。溜まったお湯で膝が隠れたら秘蔵っ子の入浴剤をポチャンとひとつ。炭酸の泡立ちとお湯の香りに心はすっかり温泉気分。日ごろのうっぷんも泡と共に消え去り、爽やかに風呂を上がれるのである。



[後ろ手に腕組み胸張り見るトマト盆栽愛でる気持ち解りて]

 素人にしては上出来だろうか。皆に見せて胸を張りたい気分だ。苗に付いていた写真そのまま、鈴生りに実をつけたプチトマト。ふたつの鉢から伸びた二本の苗が互いに絡み合い、青い実が葡萄の房のように生り重そうに頭を垂れはじめた。生い茂る葉、もつれる枝にどの実が赤く、どれが黄色に色づくのか判らなくなった。朝に夕にトマトの確認。色づきはじめた実に、今か今かと収穫の時を待つ。房のもとのほうから順に色づき、熟していくプチトマト。色濃く熟したものをあっちの房からひとつ、こっちの房からひとつ、粒ごとの収穫がはじまった。毎日おいしいトマトを味わうには、少々の我慢も必要になってくる。一度にたくさん食べたいからと、完熟していないものが混じっているのを房ごともぎったりすれば次の日に響く。色艶の誘惑に負けてその場で食べたこともあったけど、その日に収穫するのは完全に熟していると思われる実だけを選ぶ。気が付けば毎日食卓に上っていたプチトマト。一日の摂取量を少し控えるだけで叶う、自給率百パーセントのプチトマト生活。夢のような生活だ。植木鉢ふたつ分の超小規模菜園は私に飽食ではなく、「ちょっとだけ我慢すること」の大切さを教えてくれたのだった。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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