ようかんのちょっとひとくち

[信じてた寡黙な君の温もりが知人の心動かすことを]

 レンジで二分間チン!するだけだからと言って、知人が持ってきたパックご飯。期限が切れそうだから食べるのを手伝ってほしいという。レンジが無いからと断ろうとしたけれど、鍋で温めても食べられるらしいので喜んで貰い受けた。沸騰したお湯にパックごと入れ、十五分間の加熱。温める時間、ガスを使うとなるとちょっと気が重い代物だけど、稼動中のストーブの力を借りれば十五分くらい平気で温められる。薬缶のお湯を鍋に移し、晩のご飯を茹でてみる。初めて食べる茹でご飯。パックの蓋をめくり、湯気の立つのを一口ほおばる。炊き立てのご飯には敵わないけど、想像をはるかに超えた美味しさだった。私の感激ぶりに、鍋で温めたパックご飯をはじめて食べた知人の話を聞いたところ、鍋で温めた方が美味しかったそうだ。レンジで温めたものはもっちり感が少なく、冷めるのが早かったらしい。幾度となく電子レンジの便利さを語っていた知人が、鍋の威力を認めた瞬間だ。  この話に、自分までほめられたような気がして嬉しくなってしまった私が、うちにある全ての鍋を磨きなおしたことは公言しなくてもいいことだろうか。時間が経つと「チン!」と音を出して知らせてくれる電子レンジを使いこなせば、料理時間の短縮と光熱費の節約になるという。けれど私は、黙する調理器具「鍋」の方が好きだ。ちょっと目を離した隙に焦げてしまったりするけれど、ちょっぴり「おこげ」があったほうが美味しいものは、炊き立てのご飯だけとは限らない。レンジと鍋の間には、お釜で炊いたご飯の味を追い求める炊飯器のように、届きそうで届かない、埋めることができない溝があると信じていたい。


[静かなる闘志を燃やし挑むもの食いだめできぬわが身嘆きつ]

 姉の奢りで久々に外で昼食。とあるホテルのバイキングと聞いて、静かに闘志を燃やす私。自分の財布は痛まないけれど、どうせならしっかりと元は取りたい。珈琲も飲まず、控える朝食。事前にお腹を空かせておくことはバイキングに挑む者として当たり前のことなのだ、決して卑しいことではない。お腹周りが楽なストレッチパンツを穿き、丈の長い上着を選んで準備万端。これで食べ過ぎによるお腹の膨らみを、厳しい同性の目から誤魔化すことができるだろう。
 夢じゃない。ベルトを締めてこなかったことを褒めたいくらいの料理が並び、自分の好きなものを食べたいだけお皿に盛れる幸せが、現実となって目の前にある。だからといってピラフの中の海老ばかり掻き集めてお皿に盛ったりなんかしない。我れ先にデザートのケーキを取りにいったりしない。食いだめできぬこの身を嘆きつつ、珈琲を飲みながらお腹をさすり、小ぶりのケーキならもうひとつ食べられそうなところで終わっておくと、この嬉しい出来事が次回の楽しみへと持ち越されるような気がする。喜びすぎず、はしゃぎ過ぎず、今年一年間の運をこれ一回で使い果たしてしまわないようにあくまでも上品に、さぞ通いなれたかのように振舞うのだ。大っぴらに嬉しがらなくても、私がどんなに喜んでいるのかということは姉には御見通しのはずなのだから。


[言えるなら言ってみようよ母さんに私のように悔い残さぬよう]

 やきもちを焼く相手はいないけれど、自分のために餅を焼く時間がある幸せ。お正月の残りのお餅のために、スライスチーズと海苔を奮発し、小皿にしょう油も用意した。焼き餅にしょう油をつけ、チーズをのせて海苔巻きにして食べるのは、お餅があまり好きではなかった母に私が勧めた食べ方だ。これなら二つは食べられる、と喜んでいた母は去年のお正月にありがたくない病名を告げられ数ヶ月の闘病生活の末、あっけなく逝ってしまった。持病持ちの父の世話もあり、母が倒れてからの一年間は泣く暇もないほどだったけれど、今度は父が入院し、正直ほっと一息ついている不謹慎な娘は、うちでゆっくりと餅を焼いている。お餅を食べながら、母に面と向かって言っていないことがあったのに気がついた。
 「私を生んでくれてありがとう。」
 自分の母親の温もりを殆ど知らずに育った貴方の不器用な子育てに、戸惑うことも多かった。一度でいいからギュウッと抱きしめて、頭をなでてほしかった。だけど、私は貴方がそうしてもらえなかった事を知っていたから黙っていたんだ。病院のベッドで苦しんでいる貴方の頭をなでていたの、私だってこと判ってくれていたのなら嬉しいな。貴方の姿は私の前から消えてしまったけれど、貴方との想い出はそこかしこに輝きながら散らばっていて、拾い集めるのに苦労しそうだ。
 「私は貴方の子供でよかった。」今なら照れずにそう言える。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

ホームへ戻る このコンテンツのホームへ このページのトップへ
---
ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
COPYRIGHT © Takuya Kawakami. ALL RIGHTS RESERVED.
掲載されている写真・文章等の無断転載は硬くお断り致します
takuya.kawakami@gmail.com