ようかんのちょっとひとくち

[着膨れてなお肌寒し長き夜乾いた空気に小じわ増えつつ]

 日毎に忍び寄る寒さ。乾燥した空気に白い粉ふく頬と膝。買えない者は凍えておれ!とでも言いたげな灯油の値段にすっかり臍を曲げてしまった私の財布は、桁違いの無駄遣いができるこの国が羨ましいと嘆いている。国が無駄遣いしているからといって私が無駄遣いできるわけもなく、灯油が値上がりしたからといって、こちらの収入が増えるわけでもない。いつもならとっくにストーブを点けているころなのに、灯油タンクは空のまま。水蒸気を立ち上らせ、部屋と肌に潤いを与えつつ鍋を躍らせていた石油ストーブが恋しい。本格的な冬を乗り切るために用意した一缶の灯油に切り詰める食費。冬中続く灯油への出費を考えると頭が痛くなり、懐から突き抜けてくる寒さで凍えないだろうかと心配になってくる。今は何とか火鉢だけで暖を取っているけれど、やせ我慢して凍え死ぬのは嫌。着膨れて身動きが取れなくなったらストーブに灯油を入れよう。点火した暁にはストーブの上で出来る限りの料理を作ってやる。稼動中は一瞬たりとも休ませたりしない。薬缶や鍋を交互に乗せて、これでもかと躍らせてやるんだから、と今から意気込んでいる。意気込んでいるからといって危険な揚げ物をする気は更々ないが、それよりも危険なのは、貴重な灯油を使って沸いたお湯を無駄にしたくないからとヤケをおこし、湯たんぽを買ってしまいそうな自分自身なのだ。


[願わくば周りみんなが打って欲しいそれが私の予防になるから]

 灯油が貴重品になってしまった今冬。薬缶も乗せずに、飾り物と化したストーブは部屋の隅に追いやられている。臍を曲げた財布は、未だに加湿器がわりの石油ストーブの稼動を許してくれない。乾燥した空気にのどはカラカラ、何だかいつもいがらっぽい。空気が乾燥するとインフルエンザにかかりやすくなるというが、今の我が家はインフルエンザのウィルスにとって、さぞ居心地がいいことだろう。灯油の値上げは、インフルエンザウィルスにとって最善の環境を作り出し、私にとって最悪となってしまうかもしれない環境を作りあげた。せめてもの予防にとマスクを買いに走る私。インフルエンザウィルスに立ち向かってくれるマスクは少々値がはり、財布の機嫌が悪くなる一方だ。外から帰ったあとは真っ先に手を洗い、鼻を洗った塩湯の残りでうがいするのを忘れないようにしているけれど、それだけでは何だか不安。やっぱり、一番の予防法はワクチン接種なのだろうが、テレビなどでワクチン接種の話題が出るたびに、私の財布が音を立てて閉じるようになってしまった。そんな財布の持ち主は、できるだけ多くの人々にワクチンを打ってもらいたいと願うのだ。周りの人全てがワクチンを打ち、インフルエンザに感染しなくなれば、それがそのまま自分への予防になるのでは、と善からぬことを考えている。


[許してね金持ちぶったあの時を若気の至りと笑って欲しい]

 若いときは、一円玉を使うのが恥ずかしかった。財布の中から一円玉を探すのが面倒だったし、その仕草が貧乏くさく思えたのだ。そんな理由ではじめた一円玉貯金。財布に一円玉があると空瓶に貯めていたあの頃。一円玉でいっぱいになった瓶を寄付した私。ささやかな金額に丁寧な礼状をいただいた時にはとても嬉しくて、一円玉の価値ばかりか、自分の価値さえあがったような気がしたのを憶えている。次に届いた封書には振込用紙が入っていた。二度目を期待しているとしか考えられない、このあからさまな振込用紙に釈然としないものを感じ、一円玉を貯めるのを止めてしまった。それから何度も送られてくる封書。・・沈む心。
 一円玉を三百六十七枚。たった一度の寄付。封書の郵送料だけで、とうの昔に赤字となっている金額だ。私のためにかけられる郵送料などの諸経費が、他の方たちの募金で賄われているのかどうかは知る由もないけれど、もし、そうだとすれば尚のこと心が痛む。あれから年に一度は届けられる、開けることの無い封筒を目にするたびに後悔の念にさいなまれている。一円玉を邪魔にしていた私の財布は今、ポイントカードが邪魔な存在だと訴えている。期限が切れ、地団駄を踏むような思いをさせられるカードを持っているより、一円玉がいいに決まっているのだ。一円玉一枚足りなくても、品物は売ってもらえないのだから。
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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