ようかんのちょっとひとくち

 貰い酒飲んで頬染め桜色過ぎし姿を誰にぞ見せん

 日々の暮らしの中、打診も下心もない貰い物ほど貧者を喜ばせるものはありません。ある日突然、お酒が飲めない知人から自分用に買うことがない化粧箱入りの日本酒をいきなり手渡される。こんな非日常的な嬉しすぎる出来事が貧者の身におこったとしたら、どうなるでしょうか。

 お酒が好きな方は、何かしら理由を見つけて飲みたがるものですが、大安売りのパック酒ですら特別な日のためにとっておく身なればこそ、このサプライズな貰い酒は貰い主の心を大きく揺るがし、自制心を失った心は酒を飲む上でこれ以上の理由を見つけることができなくなってしまうでしょう。手渡された瞬間から目はお酒の箱にくぎ付け。ししゃもを焼いたのと、大根のお味噌汁で簡単に済ます予定だった晩御飯を、目の前にある“活性にごり酒”を楽しめるものにしたいと思うのは当然の成り行きなのです。

 贈り主の話に相槌を打ちながらも酒のつまみを考え、にわかに活性化する脳。ししゃもは焼くよりフライが合うかしら。大根は味噌汁にするのをやめてサラダにして添えようか。他に何か残っていなかったかと冷蔵庫の中を思い出そうと気もそぞろ、土産話を聞くゆとりなど何処かへ飛んでいってしまいます。贈り主が帰るのと同時に飛びつく冷蔵庫。野菜室から長いもを見つけ大喜び。お酒の事でいっぱいになった脳は、長いもを短冊にして小鉢に盛り、梅干しの刻んだのとわさびをのせて食べると美味しいよ、と囁くのです。

 〆のおにぎりも並べて準備万端。貰い酒をひとくち含んだ瞬間に、ぴりりと舌をくすぐる炭酸の刺激、あとから広がる上品な甘味。かぐわしい日本酒の香りは長かった休肝日明けを祝いますが、祝いたいあまりに気を大きくしてパック酒を取り出し、味くらべをするものではありません。上品な酒と大安売りのパック酒、貧者の舌にも違いは明らかなのです。はじめは単なる味くらべのつもりでも交互に飲み進めるうち、パック酒はくちをすすぐために飲むお酒に変わっていくでしょう。

 くちに残るししゃもの卵を流し、長いものぬめりを洗うパック酒。にごり酒を含んでは運ぶ箸。久しぶりの飲酒に喜ぶ舌、早まるペース。ふと気がつけば活性にごり酒は半分に。
 「ただ酒には呑まれるな」という亡き祖父の言葉を思い出す頃にはもう、ふらふらの状態。それでも気分だけは上機嫌で鼻歌交じりにパソコンを開き、独りよがりなメールまで送る始末。布団を敷くのも投げやりに、人には見せられない姿で眠り、目覚めた時には掛け布団は遥か彼方。あわてて毛布をかき寄せて寒さに震えながら起きる破目になる貧者。

 うつろな目に映るのは、中瓶とはいえ半分以上飲んでしまったにごり酒と、同じ分量だけ減ったパック酒。味くらべの結末は自身の限界を遥かに超えたものになり、「宵越しの酒は飲めねえ」と言わんばかりの飲みっぷりを恥じる事になるのです。痛む頭で夕べの失態を思い出し、せめてパック酒に手をつけなければ、と悔やんでも悔やみきれない朝を迎える貧者。息が止まるほど嬉しかった貰い酒も、飲みかたを間違えれば後に残るのは後悔だけ。風邪気味になった貧者は猛反省して祖父の言葉を肝に銘じ、残りのお酒を品よくたしなんだ後は、再び、いつ明けるともわからない長い休肝日に突入するのです。

よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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