第三八回
貧よく暮らす:其の八 春の鼻
平成一九年三月一三日
花粉アレルギーはある日突然、何の前触れもなく襲ってきます。今まで何ともなかった人々に突如あらわれる諸症状。痒みに負け目頭を掻いて、まぶたまで腫らす人。止まらない鼻水にティッシュペーパーが手放せず、ティッシュの箱を首から下げたいくらいだと嘆く人。鼻がつまり、口での呼吸に喉を痛めてしまう人。拭きすぎた鼻が赤くただれて痛々しい姿になる者もいます。
私も数年来、この症状とつき合ってきました。花粉まみれで飛ぶ蜂を見て、「蜜蜂には花粉アレルギーが無いのか!」と、毒づきたくなるくらいに辛い時期もありましたが、花粉症にはヨーグルトが効くらしいと聞いた一昨年からは、花粉が飛来する一ヶ月ほど前から半額ヨーグルトを見つけるたびに買い求め常食した結果、確かに症状が半減し、快適な春を過ごす事が出来ました。
けれど、今春は逆戻り。必要にかられて眼鏡を買ってしまったので、花粉ごときにヨーグルトを購入なんていう贅沢は財布が許してくれません。たとえ半額になっていようとも、二の足を踏んでしまう現実がここにあります。今年は暖冬が追い風となり、早くも花粉特有の症状が出始めてきました。せめて目薬だけでもと薬局に出向いても、抗アレルギーのものは高値で何一つ買えずに帰ってきてしまうのです。今年は以前のように、顔が痒い時には顔を洗い、鼻がむずむずする時には塩湯で洗う。目が辛い時には濡れタオルで抑え、と症状に併せて対処しなければなりません。
すすってもすすっても次から次へと流れる鼻水。所かまわず“つつ〜”と湧き出てくるのです。目の痒みは気合で何とか我慢する事が出来ても、鼻水だけはお構いなしに流れてくるのですからたまりません。いつでもどこでも“つつ〜”ですから、二枚重ねを一枚にして使っていてもティッシュペーパーの一箱なんてあっという間になくなってしまうのです。
こんなとき、頼りになるのは路上で配られているポケットティッシュ。これは花粉症の貧者にはとてもありがたいものですから、往復してでも二個三個といただきたいものです。配られる時間と場所を調べておくのも良いでしょう。知人の中には、花粉の季節に備え、箱に貯めておく人さえいます。ポケットティッシュもペーパーが二枚重ねになっていますから、そのまま使っていてはすぐに無くなってしまいます。人前では見栄を張り、二枚重ねで使っても、家で使う時には一枚ずつにして大切に使いましょう。痒みも手伝って、つい強く擦りがちな鼻の下。擦ってしまっては折角の化粧も台無し。押さえるようにそっと拭くのがコツなのです。
普段は当たり前のように息をさせてくれる鼻。元気な時にはその存在すら忘れているほどです。ところが、いざ風邪をひいたり、見ることが出来ないくらい小さな花粉一粒で、とんでもない存在感を示し始めるのもまた、鼻なのです。花粉アレルギーにおける鼻の撹乱は、健康時のありがたみを思い起こさせてくれているのかもしれません。
医者に通えず、薬も高価で手が出ない。半額ヨーグルトには二の足を踏み・・となると、貧者に残された道は、ただ一つ。『忍』の一文字しかないのです。古いマスクを洗濯して使い、こまめに掃除をして家から花粉を追い出し、むずかる鼻をなだめるために塩湯で洗ったりしながら、じっと花粉の時期が過ぎ去るのを待っているしかありません。
あとは神頼み、天から雨が降るのを待つことにしましょうか。
筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。
過去のひとくち
第一回
会長は左利き!?
第二回
知恵袋
第三回
貧的生活
第四回
小さな戦い
第五回
御利益
第六回
貧句
第七回
冬支度火鉢編
第八回
火鉢事始
第九回
文質彬彬
第一〇回
夢合わせ
第一一回
貧者の銭失い
セピアな色に染めないで
其の一
お弁当箱
其の二
遺されたもの
其の三
かめ
其の四
叔母の残像
其の五
赤いミキサー
其の六
かせくり器
其の七
薔薇のつめきり
其の八
竹行李
其の九
卓上時計
ちょっとひとくち第二部
第二一回
たまごひとつ分のしあわせ
第二二回
タオルの価値
第二三回
貧の楽しみ:花
第二四回
貧の楽しみ:家
第二五回
貧の楽しみ:衣
第二六回
貧の楽しみ:肉
第二七回
貧の楽しみ:薬
第二八回
貧の楽しみ:本
第二九回
貧の楽しみ:道
第三〇回
貧の楽しみ:髪
第三一回
貧よく暮らす:貰い物の心得
第三二回
貧よく暮らす:スーパーでの心得
第三三回
貧よく暮らす:台所の心得
第三四回
貧よく暮らす:衣類の心得
第三五回
貧よく暮らす:「鍋」の心得
第三六回
貧よく暮らす:入浴の心得
第三七回
貧よく暮らす:就寝の心得
第三八回
貧よく暮らす:春の鼻
第三九回
貧よく暮らす:飲酒の心得
第四〇回
貧よく暮らす:こころの心得
第四一回
貧よく暮らす:ナメクジの心得
第四二回
貧よく暮らす:食の心得
第四三回
貧よく暮らす:嗜好品の心得
第四四回
貧困歌
第四五回
貧困歌
第四六回
財布の御機嫌
第四七回
師走の閑話
第四八回
心の奥で想うこと
第四九回
軒下ものがたり
第五〇回
【春・貼る・張る】
ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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