ようかんのちょっとひとくち

 寒い冬。特にこの時季には人と集まり、食事をとる機会が多いものです。人数が集まれば楽しい鍋。冷え切った体に鍋料理のぬくもりは、とても嬉しいものです。独りでつつくには侘しく、仲間とつつけば楽しさも倍増するのが鍋物の特徴なのですが、人数が多ければ多いほど楽しいのか、と言い切れないこともまた、鍋物の難しいところなのです。大勢の鍋奉行を前にして、小さくなって鍋をつついた経験をお持ちの方は多いと思います。

 鍋をする人数が多ければ多いほど増える、にわか鍋奉行たち。ちょっとでも腕に覚えの有る者達は皆一様に、奉行の座をめぐり、食材を決める段階から口を出し始めます。中にはワリカンなのをいいことに、海老だカニだと、ここぞとばかり身の程知らずの贅沢を云う者も現れるでしょう。それを聞いた人が、酒が買えなくなってもいいのかと声を荒げるかもしれません。葱だけは嫌だ、椎茸は入れないで、春菊はちょっと、などと奉行の皮を被った不届き者が、自分の好き嫌いを押し付けてくるかもしれません。奉行を名乗るからには、だし昆布ひとつにも一過言持っていて欲しいものですが、そんなことはお構いなし。だしが取れるとまた、騒ぎ出す奉行たち。白菜が先だ、豆腐を入れろとうるさい、うるさい。こんなことになるなら、独りでつついた方が美味しく食べられるのに・・、と思ってももう、後の祭り。

 貧者が集う鍋パーティーは、和やかで楽しい集まりでなくてはなりません。メインの具材を選ぶ時にも、『牛肉』『海老』『カニ』など、贅沢品に分類される物の名を出さないのは暗黙の了解。メインはいつも豆腐に鶏だんご。あぶらあげを加えるのもいいでしょう。だしの昆布は早煮え昆布と呼ばれるもの。野菜は、そのときの値段によって白菜になったり、キャベツになったりしますが、奉行ぶって何かを言い始めるものはいません。例え、鍋の半分がもやしで埋まろうとも、誰からも文句が出ません。それは、お腹がいっぱいになるまで食べられることが、どれだけ幸せなのかを知っているものだけの集まりだからです。手土産にうどん玉や餅を持っていけば、それだけで貴方は今宵のヒーロー。

 手にそれぞれ好みの缶を持ち、始まる『貧者鍋の会』。せっかく集うのですから、愚痴っぽい話も、哀しいことも、みんなで笑って忘れられるものにしましょう。仲間の話にもちゃんと耳を傾け、ひとりが話の中心になるのは避けたいものです。鍋の前にお奉行さまの姿は無く、各々、堂々と自分のペースで食べることができます。具材を食べ終え、味が染み出たスウプに冷ご飯と刻み葱を入れるとき、隠し持っていた『卵』をそっと差し出せば、仲間たちの顔が一層ほころぶことでしょう。鍋のぬくもりと、仲間達の温かい心に冷えた体と心がほぐれ、お腹も胸もいっぱいになった頃、遠くに響く除夜の鐘に耳を澄ますなら、今年も一年、幸せだったと思えるに違いありません。

よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
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