ようかんのちょっとひとくち

 薄毛のロン毛だが、枝毛が無いのが唯一の取り柄。伸び放題に伸ばし、美容室には十年に一度行くか行かないかの生活。染めもせず、パーマもかけずに年がら年中、茶色のゴムでひとつに束ねている。枝毛が無いと言ってはみても、何年も伸ばしっぱなしでいると、毛先にまで栄養が行き渡らないのか、日に焼けるためなのか、髪を洗う時に毛先が絡まるようになってくる。これは毛先がパサついてきた証拠でもあるので、こうなると枝毛が出来るのも時間の問題。
 もともと、美容院に行く余裕がないので伸ばし始めた髪。ただでさえ、幸薄そうなこの薄毛のロン毛に、枝毛が増えれば尚更のこと薄幸度がアップしてしまう。いっそ、五分刈りにできたらどんなに楽か、とも思うけれど、悲しいかな私の奥に残る女の部分が、それだけはやめて!と悲鳴をあげるので、絡まらるようになった毛先をひとりで切っては伸ばしている。前髪も鏡を見ながら自分でこまめにカット。十年もの間、美容室要らずで出費もなし、何処からどう見ても安上がりな女である。

 前に美容室に行き、久しぶりにショートヘアーにした時だった。背中まで伸びた髪をばっさり切るのは勿体無いと言い続けながら、私の髪をカットし終えた美容師さんが、床に落ちた髪を持っていけと言う。髪の毛を使って針山を作ってみたらどう?と、勧めてくれる。
「髪は針山の中身に最適なの。自分の髪だから平気でしょう。」
ええ〜っ、嫌だそんなの。嘘でしょう?・・いつものように心の中で叫び、渋る私をものともせずビニール袋に髪を詰める彼女。
 あなた、椿油を使っているでしょう?それが針にはいいの、錆びないわよ。これだけあるんだから利用しなきゃ勿体無い。大きな針山ができるわよ。矢継ぎ早にあれこれ聞かされた。以前にかけたパーマがゆるく残っていたのを天然パーマと間違えたのか、ほんの少しくせっ毛だからまとめやすい、とも言われ、結局手にしたビニール袋。

 ・・出来上がった「針山」第一号は美容師さんが言ったとおり、針が錆びることも無く、椿油の効果は確かなものだった。また、髪をぎっしり詰めたので、適度に弾力があり針が刺しやすく、使い心地がよかった。ところが使い込んでいくうち、布に開いた針穴から中身が飛び出してくる。無数の小さな穴から、一本ずつ髪が飛び出てくるのだ。ブルーの花柄の針山から髪が出てきては可愛さも半減。また、穴からどんどん出てくる髪が、まるで伸び続けているようにも見え、元は自分の分身とはいえ何だか気味が悪く、早々に作り変えることにした。再生した「針山」第二号は、一号の欠点を補うべく、薄く平らにのばした綿で髪をくるんでから入れたので、使い込んで布に針穴が開いても髪が出てこなくなった。ふふっ、もうこれで大丈夫、我ながら大正解。

 あれから十余年、針山の中身は変えていない。椿油のおかげで針も錆び知らず。年に一度は針山をほどいて中身を出す。綿をそっと広げて髪を出し、折れて中に入ったままになっている針があれば、慎重にそれを取り除き、風通しのいい場所で乾燥させる。風を通した髪に椿油を足し、新しい布で針山を作ること。これが私の「針供養」だと思い、毎年、針山の縫い直しを欠かさない。あれだけ持ち帰ることに躊躇した我が分身は、十年経っても柔らかな手触りのままだ。今も使っているのか知らないけれど、人形に人の毛髪を使っていたのも頷ける。虫もつかず、綿のようにへたれず、切った当時の状態を保ったままで輝きも失ってはいない。捨てられて当然だった私の髪をゴミにすることなく、半ば無理やり持ち帰らせてくれた美容師さんに感謝したいくらいだ。テレビのコマーシャルのように、私にとっても髪は長〜い友達なのだ。網戸越しの爽やかな風に誘われ、今年の「針供養」を終えた今、再び背中まで伸びた髪を眺めては、次の利用法を考えている。


髪 針山


−− 『蚊』が飛んできたら頭をぶん!と一振り
束ねた髪は牛の尻尾の代わりにもなる −−
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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