ようかんのちょっとひとくち

 ツギをあてすぎて業を煮やし、ありあわせの布を張り替えた結果、やけに重くなった敷布団を押入れから引っ張り出して敷く。汚れ防止にタオルの「掛け襟」をつけたキルケットを三つ折にし、敷布団の足もとに置く。くたびれたバスタオルを四つ折りにして、くるくると巻いて高さを調整し、今晩使う枕を作ったら、私の寝床が完成する。洗いたてのバスタオルでつくる簡単な枕は、肌触りがよく、汗ばむこの季節にもぴったり。石鹸の香りがふんわりと漂い、私を心地よく睡眠へと誘ってくれる・・が、まだ眠らない。布団に寝転がり、うつらうつらと船を漕ぐまで読書の時間。暗い部屋、枕もとの明かりだけで寝転びながらの読書。眼科医が見たら顔をしかめるような姿で、私の楽しい時間が始まる。

 本は、移動図書館で借りたり、市立図書館で年に一回開かれる、「ふるほん市」で手に入れたものが殆ど。ふるほん市というのは、市民が持ち寄った不要になった本を、一人五冊まで無料で持ち帰ることができるという、本のリサイクルが目的の催しもののことだ。家で眠ったままの、古本屋では引き取ってくれそうにない本も、処分することなく他の人に読んでもらえるし、何より、こちらが読みたい本を無料でいただける、というのが大きな魅力である。私のような貧者、いえ、本好きにとってこの上なく嬉しいシステムなので、できることなら年に何回でも開いて欲しいくらいである。

 もちろん、今は年に一回のことで、その日は多くの読書家が集まり、開催前から長蛇の列。一昨年ほど前からは整理券が発行されるほどの盛況ぶりで、開催は朝十時なのに、三十分前に着くようにしても、館内に入れるのが正午過ぎになったりする。辛抱強く待ち、ひとたび会場へ入ると今度は、ねばりにねばって読みたい本を探し続ける。過去に手放したことを後悔している本や、既に絶版となっている文庫本を見つけたときには喜びのあまり、ひとりでに笑みが浮かぶほど。選び抜いた五冊を貰って一旦帰宅。ふるほん市の終わりがけには、一人で何冊貰ってもいいことになっているのを知っているので、夕方、再び図書館に出かける。この時間に集まるのは常連の人ばかり。皆、大きな袋を提げて集まるので、ちょっと焦ったりもするけれど、このときにも抜かりなく、今までに読んでみたかった本を吟味して選び抜く。閉館ギリギリまで選び、手提げの紙袋にぎっしり一杯の本を頂いて帰るのだ。本好きだけれど滅多に買えない私にとって、盆と正月が一緒に来たような至福の一日である。

 毎年、八月の終わりに「ふるほん市」が開かれ、その一ヶ月前ごろから古本の募集が始まるので、去年いただいた本の殆どを図書館へと提供したこの時期、我が家の本棚は、ほぼ空っぽの状態になる。本棚が空っぽで、今は何を読んでいるのかというと、『和服裁縫の独習書』という雑誌を読んでいる。わたしが生まれるよりずっと前に発行された雑誌で、実家で捨てられそうになっているのを、勿体無いからと持ってきたものを布団の上で開いている。
 独習書だけあって、男女の着物はもちろん、着やすい野良着・綿入ればんてん・幼児のねまき。炬燵布団・寝具に至るまで、こんなものまで手作りなんてと驚くらいのものが、誰にでも縫えるようにと、丁寧な言葉とイラストで説明されている。イラストの中に、こてを暖める火鉢や、本当に吹いて使う「霧吹き」の図、「たらい」や洗濯板などが載っており、当時の生活を垣間見るのが楽しく、読むというより、眺めていると言った方が正しいのかもしれない。また、「完全」のルビが「くわんぜん」、「女」のルビが「をんな」など、随所に見られる歴史的仮名遣いも新鮮に感じられ、イラストの着物姿の女性からでさえ何かこう、奥ゆかしさのような雰囲気が醸し出されていたりして、見ているだけでも結構楽しめる。

 一年間待っていた「ふるほん市」の開催日まであと僅か。それまでは、和服裁縫の基礎などはそっちのけで、雑誌のイラストを眺めては当時の生活を想像し、もし、自分がこの時代に生きていたなら、どんな着物を着ていたのだろうか、などと空想に耽りながら眠りにつく毎日が続く。


火鉢・こて 独習書表紙 霧吹き・洗濯板


−− 朝、枕だったはずのタオルが体に巻きついていることがある
夢の中で着物を着ているらしいのだが詳しくは思い出せない −−
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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