ようかんのちょっとひとくち

 作務衣を着始めてから数年、家の中にいる時には殆ど作務衣を着て過ごしている。真冬を除き、春・夏・秋と、ずっと作務衣を着ているわけで、肌寒い日には下にTシャツや薄手のセーターなどを着込み、暖かくなってきたら素肌にさらりと着る。愛用の作務衣は和木綿の紺無地で、袖口と裾にゴムが入っている「おんな作務衣」というもの。袖口に入ったゴムのお陰で洗い物をするときに腕まくりの必要がなく、また、裾さばきもよく動きやすい。
 どちらかと言うとずぼらでのんびり屋の私が、これを着ると「ようし、やるぞ!」と、家事やこまごまとした雑用を次々に片付ける気持ちが沸き起こってくるから不思議だ。夏にはガーゼの手ぬぐいに氷二個を並べて細く巻いたものを、襟に沿うように首に巻き、家事をこなす。氷が融ける頃には掃き掃除、拭き掃除も終わり、水分を含んだ手ぬぐいをきゅっと絞って顔と首を拭いた後、用意しておいた冷たいコーヒーを飲み、おやつの時間をとるのが習慣になっている。

 胸が着物のように重なるので、上の下着をつける必要が無くゆったりでき、面倒なときにはそのままで寝たりもする。動きやすいうえにゆったりと寛げるのに、だらし無い格好にも見えず、急な来客に慌てて着替える必要がないのも作務衣ならではの特徴だ。
 作務衣、作務衣といってる割りに所有枚数がたった一組。洗濯する間も惜しむほど着倒す日々。今までは一張羅の作務衣をだいじに使ってきたけれど、この度ようやく二着目の作務衣を手にすることが出来た。着物をリメイクした簡単な半・手作りの作務衣。

 叔母から「もう着ないから自由に使って」と、もらった着物を一旦は古着用の竹行李に収めたものの、何度も行李から引きずり出しては袖を通し、このまま着物として着た方がいいのか、解いて切り刻んで暖簾やテーブルセンターなどの小物を作った方が良いのか決め兼ねていた。着物を着る機会の無い生活をしているし、かと言って、虫も喰っていない新品同様の着物を切り刻んで小物を作るのも惜しい。一見するとピンクがかったグレーの無地に見える細い縞模様の中に、小豆色の太い縞が入った落ち着いた色合いは何度眺めても、作務衣向きの布地。縫うのは初めてだが、作務衣に生まれ変われば着物も本望だろうと、挑戦することにしたのだ。

 元が着物だから一枚の布から仕立てるよりも簡単。何より、襟がそのまま使えるので、事前に考えていたよりも楽に仕上げることができ、何を作ろうかと迷っていた時間の方が長かったくらい。着物を解かずに上着の丈にあわせて上下まっぷたつに裁断。袖は袂を解いて船底に作り直して縫い付け、袖口にはゴムを通した。ズボンは前に作ったパジャマの型紙をそのまま使い、ウエストは簡単なゴム仕上げ、袖と同じように裾にもゴム。動きやすいおんな作務衣となった。さすがに着物をまっぷたつに裁断する時には緊張したけれど、大きな失敗もなく洗い替え用を作ることに成功した。もう、これで一張羅なんかじゃない、交代に洗濯ができると思うと喜びもひとしおである。

 先人達は着物を大切に扱い、洗い張りや染め直しをして何年も同じ着物を着ていたそうだ。着れなくなった着物は燃やして灰にし、その灰を灰汁にして洗い物に使ったと言う。洗い張りするときには着物を一度バラバラに解かなくてはならないけれど、そのときに出る「縫い糸」も無駄にはしなかったそうで、着物から抜き取った糸を巻いてとっておき、次の仕立てに使ったらしい。気の遠くなるような話が、ひとむかし前の女性なら出来て当たり前のことだったとは驚かずにはいられない。和裁は高校の授業で習った浴衣が精一杯。お針仕事とも言えぬような方法で「作務衣を縫った」、と言い切っている私には到底できない芸当ではあるけれど、「時代が違う」と、一言で済ますには簡単すぎる。

 ひとむかし後に生まれた私は、先人達が一人前の女性になるために必ず通ってきたであろうお針仕事への道を端折ったばかりか、ミシンという道具に頼り、簡単に仕上がったと喜んでいる。古い着物のリメイク、お手軽な私の作務衣作りは、彼女達の足もとにも及ばない行為だとわかっているけれど、古い着物を生まれ変わらせた喜びには変わりなく、ほんのちょっぴり先人達の心が覗けたような、そんな気がするのだ。


作務衣

−− 作務衣を着たロン毛のおんな
表を歩く勇気はまだない −−
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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