ようかんのちょっとひとくち

 年季の入った木造家屋。壁はもちろん、藁の混じった土壁で、入居前にリフォームされていた台所の柱も黒く煤け、かつて「かまど」があったことを主張していたし、台所にあるアルミサッシの窓以外は、柱も窓枠も天然の木材が使われている。

 冬には畳の隙間や窓の木枠から、ひゅるると音を立てて風が吹き込み、北風の強い日には部屋が膨らむような勢いで、家全体に風が入ってくる。屋根から大きく張り出した「ひさし」と、西側一面を壁に覆われ、差し込む冬の日差しは頼りなく、真昼でも薄暗い部屋。部屋中に隙間風防止の新聞紙を敷き詰め、重ね着の上にもう一枚上着を羽織り、ストーブを背負っても、かじかむ身体は動きにくく、火鉢をも抱え込んでしまう冬。ストーブ点火中でも吐く息が白い、我が家の冬。

 冬には文句のひとつやふたつ、みっつくらいは出そうなこの家が、いざ、夏になると、とてもありがたい家へと変貌を遂げる。梅雨の終盤、床をもベトベトさせるような重い湿気が足もとに溜まるころが、その本領を発揮するとき。屋根から大きく張り出した「ひさし」のおかげで、少々の雨なら気にせず窓が開けられ、風を通すことができるし、軒下で洗濯物も乾かせる。西側一面の壁は暑い日差しの代名詞、「西日」を遮ってくれる。そしてもう一つ、我が家の秘蔵っ子、これ無くして我が家の夏が語れないくらいに重要な場所、「上がりかまち」がある。

 「上がりかまち」というのは、玄関を入り、三和土から座敷までの上がり口に設けられた、縁側のような廊下のような場所のこと。うちの「上がりかまち」の高さは縁側と同じ、靴を履くときに腰掛けると丁度良い高さに作られていて、下についている小さな戸を開けると、すうっと風が通ってくる。戸の奥は床下へとつながり、家の裏、縁側の下にある通気孔まで筒抜けで風通しがいい。
 梅雨が明け、鳴く蝉に起こされ、やぶ蚊に悩まされる寝苦しい夜が続く夏、打ち水代わりのお風呂の残り湯を、裏庭にバケツでざぶんと二杯。上がりかまちの戸を開いておけば、気化熱によって冷やされた空気が、裏庭の通気孔から玄関へと届く。入居後、上がりかまちのしくみを知ったときには、感心するあまりため息をついてしまったほどだ。

 貴重な梅雨の晴れ間には、家全体を開け放ち、家に深呼吸をさせる。乾かした傘やら座布団やらを取り込み、上がりかまちにちょんと座り、傘をたたむ。すうっと、足もとを通る風。この風を感じるたびに思うのは、前に住んでいた鉄筋アパートでは得ることができなかったことって、これなんだなあということ。夏が来るたびに蒸し風呂状態になり、喘いでいた鉄筋アパートの暮らしでは決して得られることがなかった、この爽快感。私が求めていた暮らしが、この家にはある。
 あの鉄筋アパートのように、ただ、人を入れるだけの「箱」とは違う。人を受け入れ、人と共存してくれる、造り手の心が感じられるのが今の家。

 冬が寒ければ寒いほど、火鉢のぬくもりがありがたく、春の兆しに敏感にもなる。火鉢を手に入れ、豆炭を扱う身となった去年からは、一酸化炭素中毒に陥る心配はまずないだろうと、隙間風にさえ感謝する始末。暑い夏の日、ひとすじの風に喜びを感じさせてくれる家。
 「木は切ってからも生き続ける。」と、祖父から何度も聞かされた。木材に囲まれ、湿気を吸ったり吐いたりしている、呼吸する家。梅雨どきには、家中で湿気に立ち向かってくれているようで、家のあちこちが膨張し、トイレの扉の開け閉めが困難になることも、この家の特徴だ。

 願わくば、『かやぶき屋根の囲炉裏付き』に住んでみたいと思っているわたしだけれど、この家での暮らしも、相当気に入っている。いつになるかはわからないけど、『かやぶき屋根の囲炉裏付き』に住まうのが実現するまでは、「寒すぎだよ。」「畳からナメクジは出さないで。」なんて、たまには文句をいいながら、今の家と楽しく共存していきたいと思っている。


上がりかまち

−− 上がりかまちの下に靴を入れると
カマドウマが入り込むのは何故 −−
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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