ようかんのちょっとひとくち
・・痛たっ、慌てるといつもこうだ、指先から血が滲んでいる。

「けふもまた 欠けた茶碗で 指を切り」なんて暢気に一句捻っている場合じゃない。
火鉢を手に入れたものの冬までにはまだ間があるからと高を括っていたら、今朝の冷え込みはどうよ、水道水の冷たさも増して茶碗を洗うのも辛いくらい。
まだ暫くは我慢できるけれど早いうちに使えるようにしておかないとあっという間に冬が来て、憧れの暮らしが遠のいてしまう。

母に聞いたのだけれど、私の火鉢には砂利を敷いてから灰を入れると安全に使えるらしい。
砂利は川原で失敬すればいいと川まで出かけたものの、川原に降りられる場所が駐車場で人が多くて断念し、帰りにふらりと寄った某ショップで細かく粒の揃った砂利を見つけ、さんざん迷った挙句に買って帰ることにした。
火熾し 灰は、家の前で焚き火など出来ない窮屈な土地柄故、自分で作ることは難しい。
米作りもしたことが無い娘に「あの火鉢には藁灰を使うといいよ」と、藁を燃やして灰を作れと電話をかけてくる無謀な母親の言葉には耳も貸さず探すこと一週間。
惨敗だった。誰も火鉢を使っていないし。
中には灰を捜していると言う私にホームセンターで売ってるよと教えてくれる人もいて、あれは石灰じゃなかったかなぁ、なんて思いながらもホームセンターで確かめて見ればやっぱりそうだ、石灰しか売っていない、私が欲しいのは「灰」なの!
ホームセンターには木炭と炭熾し、それと五徳があったのでそれらを買って帰った。

こうなったら灰は、あのお方に縋りつくしかない。
幸いなことに此処の主は「藁灰」ベースの灰をたっぷり持っていらっしゃったので、図々しくお願いする私に惜しみなくダンボール箱にいっぱいの灰を送ってくださった。

品名に灰とか書くのはさすがに初めての経験。無事到着してなによりです -- 生産者より 早速砂利を敷き、ありがたい灰をそぉっと入れてみると、空っぽだった火鉢が生き返った。
早く炭火を入れてくれと催促しているようだ(笑)。
火を入れぬまま、火鉢を動かしては一番しっくりする場所を探していたのだけれど、うちの火鉢は会長宅の瀬戸火鉢のように部屋にどっしりと腰を下ろすタイプではないので小回りが利くようにしたほうが便利じゃないかな、と思い、あることに閃いてしまった。
キャスターを取り付けた板に乗せれば炭火が入ったままでも安全に移動させられるんじゃないの?
掃除の時にも便利だし。そうだ、取っ手も付けよう、そうすればより簡単に動かせるはず。

ころころとどこまでもどこまでも ふふっ、見た目はちょっと?だけれど動けばいいのよ、これで出来上がりっ。
いそいそと火鉢を台に乗せて年季の入った火箸を添え、新品の五徳を置いてみる。
ああ、五徳の大きいことといったら(笑)。
五徳の大きさには目を瞑り、早速熾した木炭と豆炭を二つ、火鉢の中央にそっと置いてみる。
豆炭は火が点くまでに時間が掛かるけど、木炭だけでも充分に暖かい。
うーん、いいわぁ、独りにんまりしながら手をかざし温もりを楽しむ。

片隅に、いつでもどこでも 日の傾いた部屋の中、柔らかく燃える炭火を見守りながら炭の呟きを聞く。
こんなに穏やかなときをこんなに早く過ごせるようになるなんて思っても見なかった。
火箸で炭火をつつきながら、これから訪れる楽しい火鉢生活に想いをめぐらせていたら、突如鳴り響く電話の音。受話器を取ると母の声。

「今、思い出したけどあの火鉢、砂利の下に土も入れなあかんよ」

・・・・母さん、もう、遅いよ(泣)。

−− 母よ、断片的に記憶の糸を辿るのは
止めてもらえないだろうか −−
よ

招きます 筆者紹介:ようかん
日本生まれ、国内在住。
図書館で出会った「貧乏神髄」に惹かれ、会長のサイト見たさにパソコンを覚え今に至る。
猫好きだが借家のため飼う事が出来ず、
二匹の招き猫と暮らしている。

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ようかんのちょっとひとくち 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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