●竈界の生きた化石!?
七輪。最近は、本来の目的を逸脱した使用法が有名となってしまいましたけれど、一連の騒動で七輪の存在を知った方もいるだろうし、遠い記憶の海から再びその名を呼び覚ました方もいらっしゃることでしょう。
七輪が、その本来の目的とは正反対の使い方で話題になるってのも皮肉な話ですけれど、それじゃあ、有名なうちに正しい使い方を広めてしまおうという前向きな姿勢で、七輪入門をお届けいたします。
七輪。昔は七厘と書いたという名前の由来は、煮炊きするのに七厘で買える量の炭で足りることから来ている、というのが最も有名ですけれど、江戸時代に使われていながら今は現存する物が残っていない“七つ輪”から来ているという説もありまして、正確なことはわかりません。江戸から東京へと変わる頃というのは、もう、ひっちゃかめっちゃかで、何がなんだかわからないのです。
現在、七輪として最もポピュラーな形のものは、明治時代に登場したようです。針金が庶民にも気軽に行き渡るようになったことから出来た形ということでしょうか。江戸の頃にも移動できる竈として、板の上に小さな“へっつい”をこさえたものはありましたけれど、この頃には七輪という呼び名はなかったようです。
名前の由来が“七厘の炭”から来ているならば、やはり七輪と呼ぶようになったのは明治と考えるのが簡単です。江戸時代にも通貨単位として「厘」はありましたけれど、これは銀貨の呼び名であり、しかも銀を重さで使っていた頃の話。一八世紀の終わりには、銀も計数貨幣となりました。早起きは三文の得、なんていう諺もありますし、庶民には銭貨(せんか)の方が一般的だったと見るべきかなあと思います。
明治になると、新通貨に切り替わります。銅一文が一厘と交換できました。ここで、ようやく厘が馴染みの通貨になりましたから、七輪の呼び名もこの頃に出来たと考えても不思議はありません。
ちなみに、七厘の炭で煮炊きできるというのは、一回ではなく、一日を賄えると考えられます。現在と、明治時代の物価を比べるというのも難しいのですけれど、蕎麦が八厘だったと言いますから、蕎麦一杯分に少し足りない程度のお金で一日のガス代と考えると、高いのか安いのか、思案のしどころです。
でもまあ、ここは現代に戻って考えましょう。
バーベキュー用の木炭でしたら、だいたい一キロ百円が相場です。安いときは、六、七十円で買えます。一キロの炭があれば、ゆっくりと炭火を堪能できてしまうのです。
休日。七輪に炭を熾して過ごす昼下がりなんてのも、なかなか味わいのある過ごし方ではありませんか。
日本人が竈で煮炊きしていた頃の名残である七輪。昔話にしてしまうのは、もう少し待ってもらうことにしたいですね。
ちょっと、楽しんでみましょう。
●初めての七輪 購入編
かつて、七輪は竈の補助をしてくれる予備の竈……今で言う、カセットコンロ的存在でした。
今は台所にガスレンジ、もしくは電磁調理器というのがほとんどで、へっついや囲炉裏で暮らすなんてことはかえって憧れの生活になってしまっています。
けれど、いや、だからこそなのでしょう。七輪は現代にも細々と受け継がれてきました。今の五十代の方々ならば、子供の頃に七輪に炭を熾すのが日課だったなんて昔話もあることでしょう。炭火での調理を現代でも手軽に味わえる道具として、七輪は手軽さをそのままに、ひっそりと二十一世紀にも残っているのです。
炭火で焼くと旨い。
誰でも、なんとなく頷いてしまう一言ですけれど、多くの方にとっては炭火焼きの店で出される焼き鳥なんかで漠然と、一種のブランド的な意味合いで「旨い」と思い込んでいるだけかもしれません。
七輪の中で真っ赤に、静かに揺らめく炭火の熱。これがじわっと、けれど力強く食材を包み込み、
ふっくら柔らかく焼き上げてくれるし、焼き目もばっちりついてしまうのですから、これは確かに旨いのです。
ただ、こういう炭火の旨味を堪能したいと思った場合、火力の調整が大前提。
炭火だからといっても、熱のコントロールができなければ食材の旨味もかさかさに逃げてしまうのです。炭火でがりがりに干上がった肉ほど不味いもんはありません。
日頃、見ることのできなくなった炭火。まあ僕は日常でも火鉢のそれを眺め暮らしていますけれど、そいつをぐりぐりといじりながら、ちょこっと酒の肴を炙りつつ、明るいうちから始める一杯。
これこそが、七輪の醍醐味なのです。
といっても、使ったことがない人にとっては「なにを揃えれば良いのやら」という状態でしょうし、下手にホームセンターに向かわれましても、あれやこれやと余計な物を買い込んでしまう恐れもあります。
ここはすぱっと、最低限の物を揃えるに留まりましょう。
まず、なんといっても必要なのが七輪ですね。
なるべく貰い物で済ませるのが貧乏人の基本ですけれど、なにせ七輪は消耗品。日頃から七輪に親しんでいる人間は、朽ち果てるまで手放しません。バーベキュー用に買ったんだけど、あんまり使ってないんだ、なんて知人が居れば、貸してと言って貰ってくる方法もあります。でも、こういう人だと持っているのはアルミ製の七輪風コンロだったりします。
アルミ製のコンロは、高い物ならいざ知らず、そこらへんの安物ですと、断熱性が皆無。これですと、炭火の旨味を引き出すには力不足なのです。
タダで手に入れるのが難しいと感じたならば、珪藻土を固めて作った、どこからどう見ても七輪、というやつをホームセンターなどで入手してください。イラストの様な朝顔七輪ならば、安いときは、千円以下です。
続いて、七輪と言えば炭火ですから、炭を買いましょう。
自分で炭を焼くというのも乙ですけれど、あきらかにコスト割れします。ここは素直に、バーベキュー用に売られている炭を買ってきましょう。
豆炭、という手もありますけれど、独特の臭いがありますから、初めてならば木炭をお薦めします。
木炭購入の目安は、六キロ四百円未満。環境に優しくないマングローブ炭で十分です。
火を熾したり、火力を上げる際には団扇も必須。団扇の風を受けてごうごうと炎をあげる七輪の姿は、勇敢です。これは、お祭りなどで貰えるやつで十分です。
僕の場合は火鉢用の火箸があるので不要なのですけれど、火鋏もあると便利。
これは、火の着いた炭をいじるのに使います。
軍手をした手で炭を掴める方ならば必要ありませんけれど、そういう高等技術を会得されている方なら、七輪の使い方なんてばっちりでしょうね。
軍手は、炭を掴んだり、いくら火鋏があるとはいえ炭も熱いので、これも用意が必要です。
最後、あると大変に便利で経済的になるのが、火消し壺です。
これは、七輪は使い終わったけれどまだまだ炭は元気! という場合に炭を入れて蓋をすることで炭の火を消すことができる魔法の壺です。この消し炭は、もちろん再利用可能です。
燃えない素材で出来ていれば、御茶筒でもなんでも良いですけれど、高温になりますので危険です。最初はなくてもかまいませんけれど、炭を日常的に使うようになったならば、必須です。
そしてなにより、炭火で美味しさを満喫するならば網焼き。焼き網も要りますね。
七輪の口径に見合った物を手に入れましょう。
これだけ揃えば、七輪を美味しく使うための第一歩は踏み出せたことになります。
●初めての七輪 扱う上での知識
七輪を扱うのに最低限必要な知識というのは、それほど多くありません。
仕組みが簡単ですから、実物を見ただけでも、ああ、なるほど、となることでしょう。
・戸口
七輪の火力調整を担う、風の入る窓。七輪を使う際には、戸口を風上に向けます。実は、ここを開けるのは火力を一気に上げるときだけで、物を焼くときはもちろん、炭を熾したり、ちょろちょろと炭を足す際には締めたままで良いのです。七輪を使っていて真っ先に壊れてしまう部分でもあり、実際、写真の物は壊れてなくなっていますけれど、空き缶を切って針金で固定してしまえば無問題。
・火皿
七輪の中で、炭を中空に浮かせるための皿です。これがあることによって、戸口から入った空気はスムーズに上昇できるという仕組み。ただ、戸口開放を使わない使い方をマスターできれば不要です。七輪を買った際に付いてくるのは、大抵、本体と同じく珪藻土を固めたものですので、簡単に割れます。百円以下で買えますけれど、なくても大丈夫。中には、鋳物の火皿なんてのも売られています。
これだけ知っていれば、七輪を使うのは簡単です。けれど、もうひとつだけ、七輪の弱さについて知っておくと、長持ちさせることが出来ます。
七輪は、珪藻土という土を固めて作られています。ちなみに産地として有名なのは能登半島。一メートル掘っただけで出てくるそうです。水の中の藻が堆積して出来た土で、大小の気泡が特徴。そう、発泡スチロールをイメージするとわかりやすいかと思います。それ故、保温性が高く、炭の高温を維持しやすいため、七輪にはもってこいの素材なのです。
七輪にもランクがありまして、珪藻土を四角く切り出し、職人が七輪の形に掘ってから焼いた切り出し七輪と、珪藻土の屑を練ってから型に入れて焼き上げた練り物と呼ばれる七輪が存在します。もちろん、貧乏人の手に入れられるのは安物の練り物ですけれど、これは笑ってしまうほど水に弱いのです。
雨ざらしにすると、すぐに崩壊しますから、使用後は必ず、雨の当たらない場所に保管しなければなりません。
もちろん、間違っても洗っちゃ駄目です。汚れも七輪の風格と思いましょう。
七輪自体の知識としては、これだけあれば十分。
いよいよ炭を熾し、美味しい炭火焼きを堪能しましょう。
●新聞紙を極める
さて、いよいよ七輪に炭を熾すことになりました。
バーベキューなどのアウトドアライフにおける炭熾しとなりますと、昨今では着火材なるものが大手を振っております。炭を買うと着火材が付属品として入っていたりするわけでして、これだけでも、「炭に火を着けるってのは難しいことなのよ」と言われているかのようです。
でも、案外、簡単に着きます。新聞紙が大量にあれば、いつかは着きます。
ここはひとつ、ぜひとも新聞紙による着火にチャレンジしていただきたいと思います。
まず、ふわっと丸めた新聞紙に火を着け、七輪の中へ。無事に燃え上がってきたら、雑巾を絞る感覚で棒状に丸めた新聞紙と小さめの炭を投入します。
このとき、戸口は閉めたままで結構です。開けていると、新聞紙の燃え尽きるのが早すぎて炭に火が着かないことがあります。
ポイントは、いきなり大きな炭を入れても火の着くわけがないというところ。適度に砕き、若干、破片めいた炭を使うと着きやすいです。
新聞紙が燃え尽きたら、七輪の上から団扇で扇ぎます。このときも、戸口は閉めたままで。炭の、新聞紙に隣接していた面が赤くなっていれば成功です。炭から炎が上がるまで扇ぎ続けてください。
炭からぽわっと小さな炎が出たら、扇ぐのをやめます。炎が消えてしまったら、また扇いでください。扇ぎ続けても、炭が無駄に灰になるだけですから、炎が出ていれば扇がないでください。
最初に入れた炭がだいたい赤くなったなら、大きな炭を追加してください。それ以降も、炎が消えたら扇ぐ、炎が出たらそのまま放置。戸口は開けないで大丈夫です。
大きな炭三つくらいが赤々と燃え、炎が上がらなくても七輪の中は真っ赤に燃えているという状態になったら、美味しく焼く準備は完了です。
ぼうぼうと炎の上がっている段階で、もう待ちきれない! と焼き始めると食材が炭に変わってしまいます。ふっくら美味しく焼き上げるには、炭が落ち着くまでは酒を呑み、心静かに炎を見つめていてください。
どうしても炭に火が着かない場合には、使用済みの割り箸を手に入れておくと着火材になります。飲食店ではタダのゴミですから、集めようと思えば大量に手に入りますね。
新聞紙に火を着けたら、思いっきり割り箸や乾燥した木の枝を入れ、そこへいきなり大きな炭を放り込む。木っ端があれば、新聞紙だけよりも簡単確実に炭を熾せます。
●とりあえず焼いてみよう
さて、七輪は準備万端。網を乗せれば何でも焼ける。鍋を乗せればお湯も沸く。ここで、さてなにを食べようかという算段になるわけです。
しかしまあ、せっかくの炭火ですし、やはりいちばん美味しいのは炭火焼き。網の上でじぶじぶと煙を昇らせながら酒を呑むというのがなんとも嬉しいひとときになることでしょう。
七輪に収まるサイズならば、何でも焼けます。肉、魚、野菜、乾物、干物、練り物。旬の食材を塩だけで焼くと、素材の旨味を実感できます。
特にこれからの季節、お薦めしたいのが練り物です。
ちくわ、はんぺん、油揚げ、厚揚げ、がんもどきなどを網に乗せ、軽く炙る。表面の網目がなんとも旨そうなのですけれど、これを生姜醤油でぱくり。ちくわやはんぺんはふっくらはふはふとしていてたまらない旨さですし、油揚げや厚揚げなんぞは、表面はかりっと、中は柔らかいってな具合でもう、呑まずにはいられません。
焦がさないように心がけたいところですが、多少ならば焦げちゃったのもそれはそれで旨いから不思議です。焦げは健康に悪いとか、そんな話はふっとんでしまいます。
さて、関東地方では本格的な夏のないままに秋めいてきてしまいましたけれど、秋と言えば秋刀魚。これこそ、炭火でなければならない食材と言えます。
ガスや電気では、秋刀魚の本音は聞き出せません。
なぜ炭火でなければ駄目なのかと申しますと、答えは脂。秋刀魚を焼くと、大量の脂が滴り落ちるわけですけれど、ガスや電気では、この脂は無駄に捨てられてしまうだけなのです。ところが炭火でしたら、落ちた脂までもが旨味に繋がるのですから、鼻腔が黙っちゃいない。
真っ赤に燃えさかる炭火に落ちた脂は、瞬時に煙になります。この煙が、秋刀魚をうまい具合にいぶしてくれるのです。いちど離れた脂が、秋刀魚の元へ旨味として帰ってくるなんて芸当は、炭火でなければ不可能。そんな炭火を簡単に扱える七輪こそ、秋の美味しさそのものという気がしてきますね。
もちろん、全ての煙が秋刀魚に届くわけではありません。煙の一部は、傍らでじっと見守る人間にも届きます。胃袋が、悲鳴を上げるほどに強烈なおいしさです。たっぷりの大根おろし……できれば鬼おろしと呼ばれる目の粗いおろしでざこざことおろした奴をたっぷり乗せて喰うと、これはもう会話の止まり具合は蟹の比ではありません。
ああ、蟹なんてのもきっと旨いでしょうね。けれど、それはちょっと、予算的にどうも。
そうそう、秋刀魚自体を炎で包み込みながら焼く、なんて芸当も、ガスや電気では無理ですね。秋刀魚を焼くと、それまでおとなしかった炭の炎はめらめらと燃え上がります。これもまた、秋刀魚を旨く焼き上げる秘訣なのです。
あ、秋刀魚を美味しく焼くための、もうひとつ注意事項を。
七輪にも様々な大きさがありますけれど、小さな物ですと、秋刀魚の頭としっぽははみ出てしまいます。けれど、決して秋刀魚を切って乗せては駄目です。
まず焼けた部分をむはむはと喰い、まだ焼けていない頭としっぽ、それに骨は、もう一度、網に乗せてください。頭もしっぽも、かりかりに焼けた骨すらも、美味しく食べられます。
どうしても秋刀魚を切って焼きたいなら、内臓を避け、斜めに切りましょう。内臓の所でぶっつりと切ってしまうと、旨味が出ていってしまいます。
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燃え上がる秋刀魚を、動く絵で見られるようにしました。形式はAVIです。QuickTimeプラグインでお楽しみください。あ、残念ながらダイヤルアップ接続の方だと、容量が4メガ弱ありますので辛いことと思われます。
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◆ちまちまと卓上で楽しむ炭火
肉でも魚でも、美味しく焼き上げてくれる七輪。けれど、室内でちびちびちまちまと酒を呑みたいなんて場合には、ちょっと扱いにくいのも事実です。
そんなとき、室内でも炭火の美味しさを堪能できるのが、飛騨焜炉。土を固めて作られた、卓上用炭火コンロなのです。
大人数でうわっとやるには小さすぎますけれど、二、三人で串焼きやら蛤やらをじわっと焼きながら、人から貰った純米吟醸をきゅっと口に含むなんて用途にはぴったり。備長炭も手に入れば、楽しい一夜は約束されたも同然です。
僕は、残念なことに飛騨焜炉は持っていないのですけれど、招かれた先でこいつがぽつんとテーブルの上に置かれていると、それだけでもう、嬉しくてたまらなくなるのです。
●やっぱり肉が喰いたい
炭火で焼肉。
これを外食として喰おう物なら、そりゃあもう落ち着いて居られないくらいの出費が必要となります。一緒に焼肉を食べる男女はクサイ仲と申しますが、支払いを避けられないのであればそんな仲にはなりたくありません。
まあ、どこかの社長に「飯でも喰いに行こうや」と誘われて入った店ならば、どんなに高くたって割り勘のはずはありません。けれど、そんな場面は今までに一度だけ。絶後でないことを祈っておりますけれど、そうそうある機会でもありません。
しかし。
僕たちには七輪があります。肉さえ用意できたならば、まあ、それが難しいから大変なのはさておいても、憧れの炭火焼肉という夢は現実の物となります。
いいじゃあないですか、閉店間際のスーパーの精肉コーナーの片隅でちょっとくすみ気味な半額シール付き牛丼用バラ肉だって。牛肉ですよ、牛肉。
そっと広げて皿に並べたならば、遠目には立派に焼肉用に見えなくもありません。そいつに塩とコショウをぱらぱら振って、炭火焼肉を存分に楽しんでしまいましょう。
ああ、けれど所詮は牛丼用バラ肉。強い火力にさらすとあっという間に肉自体が炭になってしまいます。少な目の、安定した炭火で焼きましょう。
間違っても、七輪の戸口を開けてはいけません。肉が燃え尽きでしまうのです。
さて、肉と言えばもうひとつ、貧乏人には縁遠い存在なのがローストビーフですね。いや、貧乏人だって、なにかしらのパーティーで対決する事態もありえます。密かに、ローストビーフへの耐性を持っておきたいところです。
なにしろ、世の中の立食パーティーと言えば決まってこいつが出てきます。リボンの付いた七面鳥と双璧をなすのが、ローストビーフです。僕は飛行機に乗ったことがありませんけれど、機内食は「ビーフ オア チキン?」と聞かれるから、「both」と答えれば、怪訝な顔をされながらも両方出てくると教わりました。好きな物を選びながら歩く立食バーティーでは、牛と鶏は揃って出てきます。その片割れが、ローストビーフ……らしいです。
それ故、ローストビーフというと高いって印象がありますけれど、実は、自分で作るとそれほど高くもありません。牛のモモ肉、いや、ももんじいじゃなくてモモ肉です。これは水っぽくて安いことで、少なくとも貧乏界ではステーキと言えば牛のモモ肉なのですけれど、こいつを塊で買ってきましょう。千円くらいで、ひとりでは喰いきれないのが買えます。三人くらい集めれば、三百円ちょっとでローストビーフです。
こいつに塩とコショウを塗したら、いっとき寝かせます。ハーブでくるんだりとか、ワインに漬けたりとかするより、シンプルな方が旨いです。
寝かし終わった塊は、七輪の熾火でじっくりと三十分から一時間くらい焼き上げます。肉の大きさに合わせ、焼き時間は調整してください。網に乗せると焦げてしまうならば、七輪の上にロープで吊しても良いでしょう。肉のまわりは少し焦げるくらいで丁度良いです。
これを薄く切り、立食パーティーではあまり味わえないわさび醤油で頂くと、格別です。気の利いたホテルならばホースラディッシュが用意されているかもしれませんけれど、多くは、なんだかよくわからないタレがかけられてます。
え? 写真は無いのかですって……。
ちょっと、撮影のために千円の肉を買って来るというのは、さすがにちょっと。
●美味しく焼くための火加減
炭火の旨さを引き出すには、なんといっても火力の調整が重要です。
いくら炭火と言えども、管理を間違えてしまうとがりがりばりばりの焼き物になってしまって旨くもなんともありません。
炭火での火加減調整なんて難しいのではと思われそうですけれど、七輪なら簡単です。短くまとめるならば、「戸口は開けるな」に尽きるのです。
今回は、焼き物ばかり取り上げておりますけれど、七輪は煮炊きも可能です。鍋を乗せ、上から空気を取り入れられないような状況の場合は戸口を開けば良いのですけれど、網を使ってちまちまと食材を焼くという用途では、戸口開放の必要はありません。
炭を足すときも、よほど火力が弱まってからの追加でなければそのまま放り込めば大丈夫。美味しく炭火焼きを堪能しているうちに新しい炭も燃え出します。
炭火が弱まってしまったときは、網をどけて炭を足したら、戸口を閉めたままに上から一気に団扇で扇ぎ、炎が出たらしばらく放置、つまり、最初に炭を熾すときと手順は一緒ですから、戸口は締めたままで大丈夫。
網焼きの場合なら、七輪の火力は炭の量で調整すべきです。戸口から風を送って火力を上げるのは、炭の寿命を短くしてしまうばかりか、食材をふっくら焼き上げる機会まで失うことになるのです。
それさえ守ったなら、大抵の焼き物はなんでも焼けます。干物も、ホイル焼きだって、炭火を操って自由自在に焼きこなせたら、ちょっと嬉しいですね。
きっとガスレンジでは味わえない炭火焼きの魅力でなにを焼いても旨い! と言わずにはいられないのです。
●七輪で楽しく生きよう
焼き物だけで誌面いっぱいを使ってしまう七輪の魅力は、まだまだ楽しい使い道がいっぱいです。
食べ物以外のことにだって活躍しておりまして、七輪で陶芸を楽しんでおられる方々もいらっしゃいますし、工夫をすれば火鉢の代用品にもなります。
アイデア次第で、現代の貧乏生活だって立派に支えてくれるのですから、七輪を使える環境にある貧乏人なら、ぜひとも入手してほしいところです。
きっと、探せばどこかの家で眠っている七輪があるはず。
一時期、アウトドアにはまっていたはずなのに最近はぴたっと話を聞かなくなった、なんて奴が知人にいたら、声をかけてみましょう。
これひとつで生きる楽しさが増幅されるのですから、決してお荷物にはなりません。