おぞよもん暮らし
熊野古道 太地で一泊した翌日のメインは、熊野古道を歩き、那智の滝を見ることだった。那智の滝というのは133mの落差があり、実際に見るとかなり迫力があるらしい。

 朝は6時台の電車に乗って、那智駅に向けて出発。朝早い時間だが、高校生がわんさか乗り、誰もが膝の上に数学の課題を広げて、必死に宿題をしている。勝浦駅で車内からご来光を拝んだ後、那智駅で下車する。そこからバスで山道を行き、大門坂駐車場で降りる。空気はぴんとはりつめていて、空はぬけるように青い。気合を入れて、靴ひもをしめて、石畳を歩く。両側には杉の大木が続き、ところどころから木漏れ日が苔むした石段にさしている。

熊野古道の杉 早朝の熊野古道は時折、風が木立の間をぬけていき、草木や葉がゆれる音と、鳥の鳴き声、私の足音と息切れくらいで静かで凛とした雰囲気だ。30分ほど昇ると木々の切れ目から滝の一部が見えたので、水を飲んで一息。そして古道をぬけると、熊野那智大社の門前町に出る。急な石段沿いに土産物店が続いているのだが、途中から上の土産物店から出てきた犬が降りてきた。私が止まれば犬も止まり、常に1段先を歩くようにして登っていく。自分の土産物屋の前まで行くと、ちょこんと座り首をかしげるようにして私を見ている。看板犬にとどまらず客引き犬になっている向上心に関心しながら、犬に別れを告げて熊野那智大社から青岸渡寺に向かう。

青岸渡寺と那智の滝 青岸渡寺からは那智の滝だけでなく、熊野灘まで一望できる。海と空との境目がわからないくらいどちらも青く、海は時折きらきらと光っている。ここからは坂道を10分ほどくだると那智の滝を間近に見られるポイントに着く。滝は落差133m。そのまま見ていても迫力があってよいのだが、300円払うと滝がもう少し近く見えるという滝見台に入れて、延命のいわれがある湧き水を飲んでもよいらしい。迷ったが、宮司さんに300円を払うと、紙製の小さなお守りを手渡された。冷たくて甘い湧き水を飲んで、滝見台へ。

那智の滝 確かに滝が近いので、初めて見るにはいいかもしれない。滝の上には注連縄がはられていて、そこから水の流れがいくつもの水しぶきをあげながら合わさっていき、激しい水音を立てて岩肌を伝い滝壺に向かっている。滝の足元からは細かい水しぶきが絶えず上がっていて、日の光があたって虹が出来ている。写真を撮るが、滝の落差や水しぶきなどは実際で見たものとは全くの別もんで、こじんまりと収まってしまっている。それでも思わず愛用の携帯電話のカメラで何枚か写真を撮り、友人たちに送ることにする。

 帰りのバスに乗ると、歩いた心地よい疲労感でかなり眠たくなってしまった。メインイベントは済んだので、那智駅からは鈍行で、紀勢本線で尾鷲を経由し三重県に向かう。尾鷲までは時折見える海を見ながらうとうとしていたが、次第に空腹感で眠れなくなってきた。持ってきたビスケットはなくなっていたので、残り少ないキャラメルを口に入れるが、喉がかわく。水もほとんど残っていなかったので、特急待ちの停車時間に途中下車した駅でコーヒーを買い、ちびちびと飲んでやり過ごす。太平洋は見えなくなり、両側から山がせまっている峠をいくつも越えていく。私の横の席には高齢のご夫婦がいて、旦那さんが駅に着くたびに駅名の写真を撮っており、その様子を奥さんが「また撮るの?」と言いつつニコニコと見守っている。話題から青春18切符を使って旅をしているらしい。その旦那さんの話であと3駅で終点であり、そこから名古屋ゆきの快速が出ていることを知る。空腹感から名古屋に行って、何かうまいものでも食べて帰ろうと思うが、名古屋駅周辺があまりにも都会すぎて物価が高かったのを思い出し、とりあえず津まで行くことにする。

パンの耳と、おにぎり かなりお腹がすいているものの、途中下車した三重県の県庁所在地の津では食指が動かず、そのまま鈍行で亀山駅へ。ここの駅前の土産物や軽食を売っている店が、何となく私の第六感に響くものがあったので入ってみると、からあげの入った大きなおにぎりと、食パンの袋にぎゅうぎゅう詰めにされたパンの耳を発見。即買いして亀山駅のベンチで電車を待ちながら、もくもくとおにぎりを食べ、パンの耳をかじってお腹の虫が落ち着いた。(このパンの耳は大量だったので、家でも5日間ほど昼食代わりに食べ続けた)
 亀山駅からは関西本線・草津線・東海道本線を経由して京都へ。車窓から、三重県と滋賀県の県境に近い山々に沈んでいく夕日と暮色の空を楽しむ。京都は相変わらずの人の多さだが、やっぱりほっとするのは自分の生活圏内に帰ってきたという安心感だからだろうか。

 帰って人心地ついて、寝床でカフェオレを飲みつつ、パンの耳をつまみながら、行ってきたところの地図を改めて見てみる。知人が「行って、また帰ってこれるから、旅って楽しいんやろうなぁ」と言っていたが、帰ってきた後にじんわりと旅の余韻を味わうのもまた楽しいと思う。地図を見て路線がこんなふうに通っていたのかと驚いたり、鈍行の駅で出会った人たちなどを思い出したり、撮った写真を整理したりしながら、ゆったり過ごすのは私にとって贅沢のひとつだ。地図を見ると、私の知らない電車の路線がたくさんあることに気が着く。今度はどこに行ってみようかな。

〜おまけ〜
今回の「旅に出てみた」でかかった費用。
(事前に)
塩パン 120円
ビスケット 105円
キャラメル 105円

青春18切符(5枚綴りで2枚使用)2300円×2=4600円
紀伊田辺駅でコーラ 150円
切手(親友に手紙)120円
レンタサイクル 500円
日帰り入浴 600円
晩ご飯として、紀伊田辺のスーパーで買い物
 お寿司 380円(2割引きだった)
 缶チューハイ 108円
 いろはす(水)105円×2本
お宿代 3400円
那智駅〜那智山までのバス 行き:330円 帰り:470円
那智の滝の入山料 300円
紀伊長島駅の自販機でコーヒー 120円
亀山駅前の売店でおにぎり・袋いっぱいのパンの耳 220円

計:11838円 押入れのへそくり、ほぼ全額使い果たしました…。また頑張って貯めます。

筆者紹介:今井うさ
1979年生まれ。衣笠山のふもとで過ごした学生時代から、始末の精神と清貧生活にめざめる。
現在も京都のかたすみで、下駄をつっかけ、自転車をのりまわしながら、つつましく生息中。

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今井うさ おぞよもん暮らし 耐乏PressJapan.
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