第二九回
夏過ぎて。
平成二四年九月五日
9月に入り、夜は秋のにおいがする涼しい風が入るようになってきた。京都の夏は、暑いを通り越して、熱い。盆地なので、35度を超えると熱気が底だまりになる。14時頃、外を自転車で走っていると、照り返しと熱気で息がしづらいほどだ。祇園祭が終わると本格的に「熱い」夏となり、送り火が終わる頃に「暑く」なり、9月にようやく「残暑」といった感じがしている。
京都は外見に似合わず過酷な環境で、友人の沖縄県人が「溶けそう…」と言う夏、青森県人が「うちより寒い」と言う冬がある。ちなみにその沖縄県人に京都の夏を一言で表すとどうかと聞いたところ、「かあ゛ぁぁぁぁっ」と腹の底から絞るような声で表現したのを今でも覚えている。しかし、生粋の京都人は「ほんま暑いわぁ」とか言いながら笑っていたりするので、外見はんなり芯は強くて時にしたたかな人間性はこの気候から来るのかもしれない。私はというと、単に京都在住歴が長くなっただけの人なので、わりと「へたれ」である。夏だけでなく、家では日がな一日中、溶けたアイスのようになっていたりもするので、京都人の芯の強さを見習いたいところだ。
家では、夏期の電気代が3000円を超えると家計と心臓にひびくこともあって、極力エアコンを使わないでいた。家は普通、風呂・夕飯・寝るだけなのだが、休日はそうもいかない。気温の上昇がピークを迎えるときは、扇風機を抱えて畳の上で溶けるか、税金を食うばかりの「箱物」の施設に避難するようにしている。人もいなく広々としたところに寒いくらいのエアコンが効いている。おかげで長時間自習ができたのだが、この施設も市民の血税で動いていることを考えると、かなり複雑だ。節電というなら、こうした箱物を有効活用させたらいいのにと思う。
エアコンを使わない暑さ対策はいくつかあるが、活躍したのは保冷剤。スーパーなどで無料でもらえる保冷剤をストックしてあるので、タオルに包んで首筋や腋下にあてたり、熱暴走するパソコンの下にも置いたりとかなり重宝した。寝苦しいときは、保冷剤を首の下、両腋の下にあててクーリングすると体熱感がひき、眠りやすくなる。寝汗をべったりかいたときは、行水するとさっぱりだ。この時期、水道水がぬるま湯になっているので行水にはちょうどいい。
夏のおやつは、きゅうりに塩をつけて丸かじり。そしてタライの水につけた薬缶からガバガバと麦茶をそそいで飲む。きゅうりには体を冷やす効果があるらしく、塩分補給にもなる。きゅうりの旬が夏まっさかりというのは理にかなっているなぁと妙に関心しながら、今日も河童に負けない勢いで食べている。
残暑はまだまだ続きそうだが、こよみ上ではもう秋。今年の夏も「へたれ」ながらも、乗り切ったような気がしている。こうやって何年もかけて京都の四季に順応していくうちに、中身もいつかしっかりしていくのだろうか。
筆者紹介:今井うさ
1979年生まれ。衣笠山のふもとで過ごした学生時代から、始末の精神と清貧生活にめざめる。
現在も京都のかたすみで、下駄をつっかけ、自転車をのりまわしながら、つつましく生息中。
過去のおぞよもん
第一回
はじめに
第二回
はねもん。
第三回
お芋さんのつる。
第四回
芋するめ。
第五回
ひきだし。
第六回
底冷えと暮らす。
第七回
想いのある部屋。
第八回
うち旅。
第九回
初めての袴。
第一〇回
心のポケット。
第一一回
水回りの話。トイレ編。
第一二回
水まわりの話。お風呂編。
第一三回
水まわりの話。洗濯編。
第一四回
『料る。』
第一五回
「カゴの中身と幸せの種」
第一六回
食い意地。
第一七回
「品」のある人。
第一八回
ご飯と生きる。
第一九回
海辺の特等席
第二〇回
深夜のファミレスにて
第二一回
根っこの食べ物。
第二二回
道草。
第二三回
ワンコインの贅沢。
第二四回
真夜中のホットケーキ。
第二五回
癒しの化粧。
第二六回
エンゲル係数。
第二七回
最近の思い。
第二八回
ラジオな日々。
第二九回
夏過ぎて。
第三〇回
小さな暮らし。
第三一回
言葉の架け橋。
第三二回
旅に出てみた。その1
第三三回
旅に出てみた。その2
第三四回
30代自称乙女のお化粧事情。
第三五回
そぞろ歩きへのいざない。
第三六回
祇園祭と夏の訪れ。
第三七回
清貧生活から見えてきたもの。
今井うさ おぞよもん暮らし 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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