第一四回
『料る。』
平成一八年一〇月二五日
職場で「今井さんは心身ともに栄養が充実しているでしょうから、今度は運動をしてはどうですか」と言われた。端的に言えば、「太ったから運動せんとあかんのとちがう?」という事なのだろう。どんなにに忙しかろうと、財布が"無い布"なっていようと「おいしいもんが食べたい」と思う。帰り道はたいてい、冷蔵庫の残りものを想っていたりする。
「料る」ということは「想う」だと思う。自分や相手、食材やそれを作ってくれた人々、また包丁や鍋、火といった道具まで思い遣る。もともと口が卑しいからか、食べ物の端の端までおいしく味わい尽くしたい私は、無意識のうちに料る事にこだわっていたりする。一つの食材でも二通りの料理方法で出せば、おいしさが倍になる。
この間、閉店前のスーパーで天然ものの鯛あらを半額で仕入れた。めったにないごちそうである。日が新しくないので、火を通す必要があったが、身がぶ厚い部分はさっとあぶり、荒塩を少々まぶして鯛ステーキに。皮は細かく刻み少量の熱湯にくぐらし、七味ぽんずでいただく。頭のあらは、ねぎを多めに入れ、田舎みそで赤だし風にする。ここまで一つのフライパンで作るので、鯛ステーキや湯引きで出た油は全部赤だしに使える。細かい身は、研いだ米に入れ、だしこぶと一緒に炊き上げて鯛めしにし、久々のごちそうを食べ尽くしたのだった。
うちの母親が昔、こんなことを言っていた。「おんなはね、相手と付き合うてるときは心をつかんで、結婚してからは胃袋をつかむのよ」。何と言っても基本は食。温かいご飯があるところへ男は帰ってくるのだという。わたしは不器用なので、心のつかみかたなんてものはわからない。しかし、ええもんを安く仕入れ、ごく簡単な料理方法で、相手の胃袋を「だます」ことはできるかもしれない。自分の味覚センサーと、基本の調味料、切れる包丁に、火加減、ものを食べ尽くす心意気。これらさえあれば何とかなるような気がしている。
新鮮な素材が手に入ったときはうれしい。これをどう料理しようか、誰にふるまおうか、想うのは楽しい時間である。また、秋の夜長、ゆっくり料理本をながめるのも至福のときだ。うちにある素材を想い浮かべ、作り方をもっと簡単にして…と頭の中にレシピができたら、にわかにお腹がすいてくる。ご飯を想うより、自分の体型を想う必要があるのかもしれないが、今日も夜中、台所にたってしまった私であった。
筆者紹介:今井うさ
1979年生まれ。衣笠山のふもとで過ごした学生時代から、始末の精神と清貧生活にめざめる。
現在も京都のかたすみで、下駄をつっかけ、自転車をのりまわしながら、つつましく生息中。
過去のおぞよもん
第一回
はじめに
第二回
はねもん。
第三回
お芋さんのつる。
第四回
芋するめ。
第五回
ひきだし。
第六回
底冷えと暮らす。
第七回
想いのある部屋。
第八回
うち旅。
第九回
初めての袴。
第一〇回
心のポケット。
第一一回
水回りの話。トイレ編。
第一二回
水まわりの話。お風呂編。
第一三回
水まわりの話。洗濯編。
第一四回
『料る。』
第一五回
「カゴの中身と幸せの種」
第一六回
食い意地。
第一七回
「品」のある人。
第一八回
ご飯と生きる。
第一九回
海辺の特等席
今井うさ おぞよもん暮らし 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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