第一一回
水回りの話。トイレ編。
平成一八年二月二八日
冒頭からご不浄の話で申し訳ないのだが、用を足していて、ぱっと見たらトイレットペーパーがない事が度々ある。過程はあまり気にされないでほしいが、こういう場合は室内でティッシュ代わりにしているトイレットペーパーを取ってくるか、在庫なしであれば、インド式に隣のシャワーで洗うかする。
また別の話。飲みすぎと食べすぎで、夜中に気持ち悪くなり、上からも下からも排出し、気絶しそうになる事が年に数回ある。また、ストレスでお腹の調子がすぐれず、身体の出口に栓をしておきたい事は何度もある。これらの場合、トイレに長時間にわたり、こもるか通うかして、何とか危機を脱する。
狭くて古く格安とはいえ、今は小さくても台所、ユニットバスと全て揃った物件に住んでいる。これまで住んだのはトイレ、風呂(もしくはコインシャワー)は必ず共同、そのうち二件は台所も共同で、それを思うと今はかなり恵まれている。上記のような場合は「ああ、部屋にトイレがあるってほんまにええことやね(涙)」と、感動すら覚える。
例えばある物件は、各階ごと外の廊下のつきあたりに共同トイレがあった。これは「鍵」がないと用が足せない代物であった。入居者には部屋の鍵と一緒に「トイレの鍵」も持たされる。外部の者が使用しないようにとの事だが、内部の者にとってはこのうえなく不便なものであった。部屋の合鍵は作る気になっても、トイレの合鍵はもったいない。というわけで、トイレの鍵は一本で過ごしたが、整理と片付けが得意ではない私は、非常事態になって「ぎゃあー!!鍵、どこー!!」と叫んで探し回る事を何度か繰り返した。雪が舞い散るある夜、身体はトイレに急行せよと告げているにも関わらず、鍵が見つからなかった事がある。そしてお腹を抱えて公園のトイレに走り、何とか第一波をやり過ごし、後始末をしようとしたそのとき、、、!
歴史が動いた(by NHK)。ではなく、紙がなかった。。。その後のことはご想像におまかせするが、トイレが部屋にない事でえらいめにあった事例はいくつもある。わたしの整理整頓の悪さも要因のひとつではあるのだが。ちなみに冬は廊下のあちこちが凍る事もあり、トイレに猛ダッシュをかけると、スッテーンと転ぶこともしばしばであった。また共同なので、特に出勤時などは行きたいときに他の人が用を足していることも多く、用が大きいほうだったりするのか、なかなか空かず、やっぱり公園に走ることもあった。
なので、今の部屋にトイレがある事を聞いた友人は感動のまなざしでのたまった。「何がうれしいかって、これでパンツ一丁でも、お腹がピーでも、すぐにトイレ行ける事やんな!」
この原稿を書いている時間を見ると、丑三つ時を過ぎたあたり。この時間、用を足しにうちの外に出なくてもいいのはいつもうれしく思う。と同時に、もう以前の生活に戻るのは難しい自分を感じている。
トイレが外にあった時。夜中に出るのは少しこわいので、二十二時を過ぎると出ようが出るまいがトイレに行き、それ以降は水分を控えた。間違っても週末の深夜、ラーメンをズルズル、酎ハイをグビグビ、つまみのキムチをバリバリ、そして喉がかわいて水をガバガバ飲む事はしなかった。行きたいときに何時でもすきなだけ行ける、うちの中のトイレ。まるで二十四時間営業のコンビニのようでもある。制約のない事はとても楽で便利だ。でも、その分、確実にたがが緩んでいるのも事実で、人が物質的な「豊かさ」に走るのはもしかしたら、こういう事の積み重ねなんだろうなと思う。
自分に甘いわたしは目の前にトイレがあると禁欲的になれない。せめて以前の状態を思い出す事で、これ以上たがを緩ませてはいけないぞと、つい先ほどもトイレで反省する次第なのであった。
筆者紹介:今井うさ
1979年生まれ。衣笠山のふもとで過ごした学生時代から、始末の精神と清貧生活にめざめる。
現在も京都のかたすみで、下駄をつっかけ、自転車をのりまわしながら、つつましく生息中。
過去のおぞよもん
第一回
はじめに
第二回
はねもん。
第三回
お芋さんのつる。
第四回
芋するめ。
第五回
ひきだし。
第六回
底冷えと暮らす。
第七回
想いのある部屋。
第八回
うち旅。
第九回
初めての袴。
第一〇回
心のポケット。
第一一回
水回りの話。トイレ編。
第一二回
水まわりの話。お風呂編。
第一三回
水まわりの話。洗濯編。
第一四回
『料る。』
第一五回
「カゴの中身と幸せの種」
第一六回
食い意地。
第一七回
「品」のある人。
第一八回
ご飯と生きる。
第一九回
海辺の特等席
第二〇回
深夜のファミレスにて
第二一回
根っこの食べ物。
第二二回
道草。
第二三回
ワンコインの贅沢。
第二四回
真夜中のホットケーキ。
第二五回
癒しの化粧。
第二六回
エンゲル係数。
第二七回
最近の思い。
第二八回
ラジオな日々。
第二九回
夏過ぎて。
第三〇回
小さな暮らし。
第三一回
言葉の架け橋。
第三二回
旅に出てみた。その1
第三三回
旅に出てみた。その2
第三四回
30代自称乙女のお化粧事情。
第三五回
そぞろ歩きへのいざない。
第三六回
祇園祭と夏の訪れ。
第三七回
清貧生活から見えてきたもの。
今井うさ おぞよもん暮らし 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
COPYRIGHT © Takuya Kawakami. ALL RIGHTS RESERVED.
掲載されている写真・文章等の無断転載は硬くお断り致します
takuya.kawakami
@gmail.com