第八回
うち旅。
平成一八年一月二日
お金と時間があれば、電車に乗って旅に出たいと思う。学生は時間があっても金はない、社会人は金があっても時間はないと世間では言われる。わたしは学生時代、時間があるとは言えず、お金は全然なかった。社会人の今、お金があるとは言えず、まとまった時間は全くとれなくなった。学生の頃に比べてよくなったのは、飲食店のガラスケースを見かけると、ひもじい気持ちになることが少し減ったこと。変わらないのは旅行社のパンフを見かけると、旅に出たいと思うことだ。
ただ、パンフに載っている旅をしたいのではない。鈍行に乗り継ぎ、旅した先の市場でその土地ならではのものを食べ歩くのがわたしの贅沢な夢である。とはいえ、そんなお金も時間も持ち合わせていないので、わたしは休日、うちで旅をする。地図帳と時刻表、そして図書館で借りた目当ての土地の紹介本などがあればいい。大学では地理学を専攻したわたし。地図の類がだいすきで、眺めているだけで軽く二時間はつぶせる。高校時代の地図帳、一県ごとになった分厚い地図帳、全国道路マップ、時刻表と飲み物を用意して「うち旅」が始まる。
まずは時刻表を見て、どの電車に乗ればよいかを検討する。うちの中、もっと言えばわたしの頭の中での旅なのだから、豪勢に特急に乗ってもよいのだが、やはり貧乏性なので鈍行や快速だけを利用する。そしてダイアグラムを作成し、途中下車を含めて、駅周辺の情報を地図や本などから拾っていくのが「うち旅」のパターンだ。例えば、鈍行で湖西の景色を楽しみつつ、越前若狭方面に一泊二日の旅に出かけてみるとする。
時刻表を開けたら、まずおにぎりとゆで卵の包みをあけよう。わたしの旅にはこれが欠かせない。ちなみにもし懐が温かであれば、これらにみかんがつく。武生からはJRから福井鉄道に乗り換えて福井入りをし、それから本命のえちぜん鉄道に乗りたい。今後の乗り継ぎの都合上、福井でゆっくりする時間はなさそうだ。次に芦原、三国港方面のダイアグラムを検討する。意外と本数があるので、芦原温泉で散策後、三国港で下車。安い民宿かユースホステルを探す。温泉地の公衆浴場はどこか、港では新鮮な海の幸が安く食べられないだろうか等、調べていくうちに旅は具体性を増していく。次の日は永平寺、福井散策をしてから京都に帰ろう。できれば夕暮れの湖西を眺めながら帰りたいので、ここでも時刻表と照らし合わせる。
と、こんな感じで京都に「帰ってきた」頃には、わたしの手元に「うち旅」の記録が残り、かなり充実した気分になる。このおかげで、お金と時間さえあればいつでも本当の旅に出かけることができるが、それはいつかのお楽しみ。
「うち旅」は小学校の時の遠足の前日に似ている。わたしは遠足そのものより、前日の準備がすきで、何度も栞や地図を見たり、持ち物を点検したりするのがとても楽しかったのを覚えている。きっとその名残があるのだろう。今は旅そのものもだいすきだが、それができないからといってどうということはない。「うち旅」をするたびに、いつかの楽しみが増えていく気がするからだ。
筆者紹介:今井うさ
1979年生まれ。衣笠山のふもとで過ごした学生時代から、始末の精神と清貧生活にめざめる。
現在も京都のかたすみで、下駄をつっかけ、自転車をのりまわしながら、つつましく生息中。
過去のおぞよもん
第一回
はじめに
第二回
はねもん。
第三回
お芋さんのつる。
第四回
芋するめ。
第五回
ひきだし。
第六回
底冷えと暮らす。
第七回
想いのある部屋。
第八回
うち旅。
第九回
初めての袴。
第一〇回
心のポケット。
第一一回
水回りの話。トイレ編。
第一二回
水まわりの話。お風呂編。
第一三回
水まわりの話。洗濯編。
第一四回
『料る。』
第一五回
「カゴの中身と幸せの種」
第一六回
食い意地。
第一七回
「品」のある人。
第一八回
ご飯と生きる。
第一九回
海辺の特等席
今井うさ おぞよもん暮らし 耐乏PressJapan.
発行:全日本貧乏協議会
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